避難安全検証法は、建築物で火災が発生した際の、避難安全性能を検証する手法です。在室者が煙によって危険にさらされることなく、避難を完了できる建築物の設計を目指しています。ただ、施行から25年あまりしか経過していないという新しさと、制度の複雑さから、正しい理解が浸透していない実状があります。
今回は、避難安全検証法とは何か正しく理解し、設計に活かすために知っておきたい項目を解説します。
避難安全検証法の概要
はじめに、避難安全検証法の概要を解説します。
制度の全体像を把握してから、詳細な項目を理解していきましょう。
避難安全検証法とは
避難安全検証法は、2000年6月の建築基準法改正によって始まった制度です。
改正前の建築基準法は、一定以上の建築物に対して仕様規定を設け、建築物一律での避難関係規定への適合を求めていました。2000年6月の改正は、仕様ではなく「性能」を規定し、安全な避難経路の確保を求める条項が追加されました。この改正により、性能規定を満たせば、建築基準法の一部の規制を適用除外できるようになり、現在に至ります。避難安全検証法は、性能規定の手法の1つだと理解して問題ありません。
現在、従前の仕様規定を「ルートA」、改正後の性能規定を「ルートB・C」と呼びます。
仕様規定とは
仕様規定(ルートA)は、建築基準法の法文に書かれた内容を、そのまま設計に適用すれば良いという考え方です。歩行距離や高層区画、避難施設、内装等に制限が発生します。
性能規定とは
性能規定は、法文が定める性能を満たすことで、建築基準法の一部の規制を適用除外できるという制度です。建築物それぞれに合った避難計画を策定でき、設計の選択肢が広がります。
避難安全検証法を定める条項
避難安全検証法が定める性能規定や確かめ方は、以下の条項に記載されています。
内容 | 施行令 | 告示 |
---|---|---|
区画避難安全性能を有するもの | 第128条の6 | 告示474号・509号 |
階避難安全性能を有するもの | 令129条 | 告示475号・510号 |
全館避難安全性能を有するもの | 第129条の2 | 告示476号・511号 |
避難安全検証法で検証する箇所の区分
避難安全検証法は、「区画」「階」「全館」の3区分での検証が可能です。たとえば「区画」は、建築物のうちの一部区画でのみ検証する、という意味です。
避難安全検証法によって建築基準法の規制適用除外を受けられるのは、検証した箇所のみとなります。区画で検証した性能規定を、階や全館に適用することはできません。
避難安全検証法の利用により適用除外できる建築基準法の規制
避難安全検証法を利用し、建築基準法の規制を一部適用除外できる項目は、下表の通りです。
項目 |
条 |
項 |
規定の概要 |
区画避難安全性能を有するもの |
階避難安全性能を有するもの |
全館避難安全性能を有するもの |
防火区画 |
112 |
7 |
11階以上の100m2区画 |
- |
- |
〇 |
11 |
竪穴区画 |
- |
- |
〇 |
||
12 |
竪穴区画 |
- |
- |
〇 |
||
13 |
竪穴区画 |
- |
- |
〇 |
||
18 |
異種用途区画 |
- |
- |
〇 |
||
避難施設 |
119 |
廊下の幅 |
- |
〇 |
〇 |
|
120 |
直通階段までの歩行距離 |
- |
〇 |
〇 |
||
123 |
1 |
屋内避難階段の構造 |
- |
- |
〇 |
|
2 |
屋外避難階段の構造 |
- |
- |
〇 |
||
3 |
特別避難階段の構造 |
- |
〇 |
〇 |
||
第10号 防火設備 |
- |
〇 |
〇 |
|||
第3号 耐火構造の壁 |
- |
- |
〇 |
|||
124 |
1 |
物品販売業を営む店舗における避難階段等の幅 |
- |
〇 |
〇 |
|
第1号 避難階段等の幅 |
- |
- |
〇 |
|||
屋外への出口 |
125 |
1 |
屋外への出口までの歩行距離 |
- |
- |
〇 |
3 |
物品販売業を営む店舗における屋外への出口幅 |
- |
- |
〇 |
||
排煙設備 |
126の2 |
排煙設備の設置 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
126の3 |
排煙設備の構造 |
〇 |
〇 |
〇 |
||
内装制限 |
128の5 |
特殊建築物等の内装(第2、6、7項および階段に係る規定を除く) 自動車車庫等、調理室等 |
〇 |
〇 |
〇 |
避難安全検証法で適用除外できない規制3つ
避難安全検証法を利用しても、建築基準法の規制を適用除外できない箇所が3つあります。間違えやすい項目でもあるため、確認しておきましょう。
(1) 重複距離
建築基準法は、安全避難に必要な歩行距離を定めています。階段が少なく、平面に広い建築物は、簡単に建築基準法に適合しなくなってしまいます。歩行距離の制約を回避するために階段を増やす、という選択肢がとれない場合、避難安全検証法を使って歩行距離の規制を適用除外するケースはよく見られます。
ただし、重複距離は避難安全検証法を使っても適用除外できません。歩行距離と重複距離は概念が似ており、混同しやすいため、注意が必要です。
(2) 面積区画
建築基準法では、4つの防火区画を定めています。
- 面積区画
- 高層区画
- 竪穴区画
- 異種用途区画
このうち、高層・竪穴・異種用途区画は避難安全検証法によって、建築基準法の規制適用を除外できますが、面積区画だけは適用除外できない点にも注意が必要です。面積区画と、その他の区画をしっかり区別しておきましょう。
(3) 避難階の歩行距離
歩行距離を避難安全検証法で規制適用除外する場合、避難階と避難階以外で手法が変わります。避難階の歩行距離を適用除外するには、検証の手間が最もかかる「全館避難安全検証法」を使わなくてはなりません。
全館避難安全検証法とは、建築物全体の性能規定への適合を検討する方法です。区画のみ・該当する階数のみの検証では、避難階の歩行距離は規制適用を除外できない点に注意してください。
避難安全検証法を利用するメリット
細かなルールもあるものの、避難安全検証法は設計者にさまざまなメリットをもたらすことも事実です。避難安全検証法の利用による設計者のメリットを解説します。
設計の自由度が向上する
避難安全検証法を利用すると、建築基準法の仕様規定通りではない建築物も設計できるようになります。レイアウトやデザインを制約する設備を減らせ、自由な設計が可能になります。
例1、排煙設備を減らせる
床面積500m2を超える建築物には、排煙設備の要否判定と設置基準の検討が課されます。排煙設備はレイアウトを制約し、視界に余計な存在感となってあらわれる場合もあります。定期的なメンテナンスと報告の義務もあり、設置後にもコストが必要です。
避難安全検証法によって排煙設備を減らせれば、自由でスッキリした設計が可能になり、メンテナンスコストの削減にもつながります。
例2、不要な避難口を削減できる
避難口や非常用進入口を設置しても、その前に荷物や什器が置かれる例は、しばしば見られます。避難口・非常用進入口が機能しなければ、災害発生時の避難が困難になり、在室者に混乱をきたすおそれもあります。
避難安全検証法を利用し、不要な避難口を減らすことで、必要な場所に・必要な分だけの避難口を設置しつつ、レイアウトの制約を減らすことができます。
建築コストを削減できる
避難時の安全を確保する性能を満たしつつ、不要な設備を減らせば、建築コストの削減にもつながります。
店舗用途の場合、避難階段を軽減できれば、その分売場面積を広げられ、商品販売の効率向上も期待できるといった、副次的なメリットも生まれます。
避難安全検証法を利用できる建築物種類
避難安全検証法は、次の2つの条件をともに満たす建築物のみが利用できます。
(1) 主要構造部が準耐火構造、もしくは不燃材料で造られている
(2) 建築物が「在室者の自力避難が困難」と考えられる用途ではない
「在室者の自力避難が困難」な建築物は、たとえば病院や診療所、高齢者施設、児童福祉施設などを指します。
ただし、避難安全検証法の使い方によっては、例外的に適用できるケースもあります。このあたりの詳細は難解なため、専門家への相談をおすすめします。
避難安全検証法の考え方で大切なポイント
避難安全検証法は、設計の自由度が上がる・建築コストを下げられるなど、設計者にも建築主にもメリットの大きな手法です。
ただし、設計では在室者の安全な避難を最優先に考えます。
避難安全検証法は、安全を確保するために、建築基準法では網羅できない部分をカバーした制度です。火災安全工学などが進展し、火災発生時の効率的な避難経路や安全性の予測が可能になったために、導入された制度である点を、忘れないようにしましょう。
より安全で安心して使える建築物を建てるために、避難安全検証法が生まれました。この順序を間違えなければ、避難安全検証法は「設置しても使われない設備」を減らし、設計上の美観を保ち、コスト削減にも有効な手段です。
まとめ
避難安全検証法は、建築物基準法が定める避難関係規定への適合を、一部除外できる制度です。法令が定める性能を満たすことが、条件となります。
適用可能な箇所が多岐に渡りわかりにくい、検証の手間がかかるなどのデメリットはありますが、正しく適用できれば、不要な設備を減らして自由な設計が可能になり、建築コストの削減にも貢献します。
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