住宅の省エネ性能や断熱性能を高めたうえで、創エネを活用することで住宅内で使用するエネルギー収支の正味ゼロを目指すZEH住宅。
その中でZEH Orientedは、創エネが難しい地域でもZEH住宅を普及させるために作られた基準です。
この記事ではZEH Orientedの概要や導入メリット、2025年度に利用できる補助金制度を詳しく解説します。
ZEHとは
ZEHとは高断熱・省エネ・創エネを組み合わせて、消費エネルギーゼロ以下を目指した住宅です。
次の3ステップで、消費エネルギー削減を実現します。
- 住宅の外皮性能を高めて消費エネルギーを減らす
- 省エネ設備で少ないエネルギーを効率的に使う
- 創エネ設備で電力を生成し、消費エネルギーを賄う
引用:ZEH Web「ZEHとは」
ZEH住宅は地域の特性などに合わせて4つの段階があり、それぞれのエネルギー削減率の基準は下記のとおりです。
引用:ZEH web「ZEH補助金について」
外皮性能はどのランクでも、断熱等級5に相当する基準が定められています。
外皮性能基準は、地域によって区分されています。
引用:国土交通省「地域区分の見直し」
地域区分 | 1・2地域 | 3地域 | 4~7地域 | 8地域 |
UA値(W/㎡K) | 0.4 | 0.5 | 0.6 | – |
ZEH Oriented(ゼッチオリエンテッド)とは
ZEH Orientedは、冬場に雪が多く日射が少ない地域や、太陽光パネルを乗せる屋根の広さが確保できない都市部で、ZEH住宅を促進するために設定されたZEHシリーズのひとつです。
ZEHシリーズの中で唯一創エネ基準が定められておらず、省エネによる削減率のみ設定しています。
ZEH Orientedの認定基準
認定基準は、次のとおりです。
項目 | 認定基準 |
外皮性能 | 断熱等級5相当 |
消費エネルギーの削減率(創エネを含む) | 20%以上 |
消費エネルギーの削減率(創エネを含まない) | – |
前述したとおり創エネの基準はなく、省エネ性能のみで消費エネルギーの削減を図ります。
ZEH Oriented適用対象の多雪地域や都市部狭小地は?
適用となる地域は、下記のとおりです。
地域 | 概要 |
多雪地域 |
・垂直積雪量1m以上の地域 |
都市部狭小地 |
・北側斜線制限対象地域 ・敷地面積が85㎡未満の土地(平屋は対象外) |
北側斜線制限とは、建築物を建てる際に北側に隣接する建築物の日光を確保するために、建築物の高さを制限する規制です。
ZEHとZEH Orientedの違い
ZEHとの違いは、創エネを含めた消費エネルギー削減率の有無です。
ZEHが創エネを含めた一次エネルギー消費量が100%以上削減を目指すのに対し、ZEH Orientedは創エネを含まない一次エネルギー消費量を20%以上削減することが評価基準となります。
ZEH Orientedを導入する5つのメリット
導入時に得られるメリットを5つ解説します。
都市部狭小地でもZEH水準住宅が導入できる
最大のメリットは、従来ZEH住宅の導入が難しかった地域でもZEH認定を受けられる点です。
日光の当たる時間が少なかったり、太陽光パネルを設置できる屋根が小さかったりして創エネが見込めず、ZEH住宅を諦めていた地域でも導入ハードルが低くなるでしょう。
エネルギー消費や光熱費を削減できる
消費するエネルギーを20%以上削減できるため、必然的に光熱費も安くなります。
国土交通省の調査によると、北海道など雪の多い地域で省エネ基準住宅とZEH住宅の光熱費は、年間で約9万円前後の差額があるとされています。
引用:国土交通省「省エネ住宅で節約できる年間の光熱費」
長くマイホームで暮らしていくうえで、光熱費の削減は大きな強みといえるでしょう。
住宅の快適性が向上する
ZEH Orientedは外皮性能が高いため室内の快適な空気が外に逃げにくく、一年中快適な室内環境を整えやすいのが魅力です。
また、家全体を覆うように外皮性能を高めるため、エリアごとの温度差が生まれにくく、真冬に発生しやすいヒートショックのリスクを低減する効果も期待できます。
フラット35Sや住宅ローン控除を利用できる
ZEH OrientedはZEH水準住宅として、フラット35Sや住宅ローン控除を受けられます。
フラット35Sとは住宅ローン金利を、5年間引き下げる制度です。
引用:フラット35「【フラット35】S(ZEH)」
住宅ローンは2024年1月以降、省エネ住宅適合基準を満たした住宅のみ受けられるようになりました。
特に省エネ性能の高いZEH水準省エネ住宅は、省エネ住宅適合基準の住宅よりも借入限度額が500万円増額します。
引用:国土交通省「住宅ローン減税改正(令和4年度)3つのポイント」
どちらも毎月のローン返済額を抑えるため、積極的に利用したい制度です。
贈与税の非課税枠が拡大する
断熱等級4以上の住宅を建てた場合、質の高い住宅として認められ、贈与税が1,100万円まで非課税になる特例が受けられる可能性があります。
祖父母や親から費用の援助を受けられる場合は節税対策としておすすめです。
ZEH Orientedを導入するデメリットや注意点
導入する際に理解しておくべきデメリットは、下記の2点です。
- 初期コストがかかる
- 間取りや設備の自由度が下がる
創エネ設備が必須でない分、他のZEHシリーズよりも初期コストは低めですが、一般的な住宅よりは費用がかかる傾向です。
また断熱性や省エネ性に配慮した設備や間取りを選ぶ必要があるため、間取りなどに制限が出る場合もあります。
初期コストを抑えるには、行政が用意する補助金制度の利用がおすすめです。
【2025年度】ZEH Orientedで受けられる補助金制度
ここでは2025年度に利用できる最新の補助金制度を解説します。
戸建住宅ZEH化等支援事業
戸建て住宅ZEH化等支援事業とは、ZEH住宅を建築・購入する個人や販売者となる法人が対象の補助金制度です。
条件を満たすと、新築住宅一戸あたり55万円の定額補助が受けられます。
補助対象になるには、次の条件をクリアすることが必要です。
- SII(一般社団法人環境共創イニシアチブ)に登録したZEHプランナー又はビルダーの関与がある
- 新築の専用住宅である
- 常時居住する予定の住宅である
- 申請時に工事着手前もしくはBELS取得前であり、交付決定後に工事に着手する(建売住宅の場合は交付決定前に売買契約の終結等が行われていないこと)
- 住宅の敷地が土砂災害特別警戒区域や災害危険区域などに該当しない
参照:ZEH Web「戸建てZEH補助金・申請ガイド」
戸建住宅ZEH化等支援事業は複数の申請区分が用意されているので、公式サイトの「申請種別診断」で確認しましょう。
また申請に必要なZEHポータルアカウントの発行方法は、「ZEHポータル・マニュアル」でチェックできます。
2025年度の公募スケジュールは、下記のとおりです。
引用:ZEH Web「令和7年度戸建てZEH事業概要」
応募が多数あり公募規模を越えた申請があった場合は、公募期間終了後、不備や不測のない申請書類を対象として抽選が行われます。
子育てグリーン住宅支援事業
子育てグリーン住宅支援事業は、子育て世代や若者世帯夫婦がZEH水準もしくはZEH水準を上回る省エネ住宅の建築を実施する際、資金面でサポートする事業です。
補助金額は、下記のとおりです。
補助対象住宅 | 一戸あたりの補助額 | 古家の除去を行う場合の加算額 |
ZEH水準住宅(ZEH Orientedを含む) | 40万円/戸 | 20万円/戸 |
戸建住宅ZEH化等支援事業の補助額が55万円のため低額に感じられますが、古家の除去を行う場合は子育てグリーン住宅支援事業の方が高額になります。
事業の対象期間は、次のとおりです。
契約期間 | 問わない |
対象工事着手期間 | 2024年11月22日以降に対象工事に着手したもの |
交付申請期間 |
予算上限に達するまで (遅くても2025年12月31日まで) |
完了報告期間 | 2026年7月31日まで |
事業は予算上限に達し次第終了するため、利用を検討している場合は早めの申請が望ましいです。
申請予定額を予約するシステムも設けられているため、予算上限に達するまでに申請できるか不安な場合は、交付申請の予約を利用しましょう。
グリーン住宅支援事業を利用する場合、手続きはすべて「住宅省エネポータル」で行うため、予めポータルのアカウントを取得しておく必要があります。
また建築事業者は、「グリーン住宅支援事業者」への登録が必須です。
ZEH Orientedでよくある質問3選
導入を検討する際によくある質問を、3つ解説します。
ZEH Orientedに太陽光発電システムは必要?
ZEH Orientedは創エネ基準が設けられていないため、創エネ設備の導入が必須ではありません。
ネット・ゼロ・エネルギーを目指すには創エネ技術を取り入れるのが望ましいですが、導入しなくても評価に影響しません。
ZEH Orientedの建築費用は高い?
ZEH Orientedの建築費用は一般的な住宅と建築費用よりも、5〜10%高いといわれています。
太陽光システムを導入する場合は、さらに5%程度上昇するといわれています。
一方、一般的な住宅よりも省エネ性能が20%以上高く、その分光熱費も軽減します。
さらに補助金制度や住宅ローン控除等を利用することで、建築費用を抑えることが可能です。
ZEH-M Oriented(ゼッチマンションオリエンテッド)との違いは?
ZEH-M Orientedとの違いは、認定対象となる建築物です。
ZEH Orientedが戸建て住宅やマンションの住戸を対象にしているのに対し、ZEH-M Orientedはマンションの住棟全体を対象にしています。
また、ZEH-M Orientedは、太陽光発電が見込めない地域ではなく、6階建て以上の高層マンションにおいて目指すべき水準として設定されています。
外皮性能や一次エネルギー消費量の水準はどちらも同レベルで、創エネの規定はありません。
まとめ
ZEH Orientedは、十分な太陽光発電が見込めない多雪地域や都市部狭小地でのZEH促進に向けた、創エネ基準のないZEH住宅です。
一般的な住宅よりも建築費用がかかるので、補助金制度や住宅ローン控除の積極的な活用が大切です。本記事のメリットや注意点を参考に導入を検討していきましょう。
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