ZEH-M Orientedの「M」はマンションの意味で、マンションをはじめとする集合住宅向けのZEH基準の1つです。ZEH-M Orientedは、太陽光発電パネルを設置しにくいケースが多い、高層マンションを対象とします。
今回は、ZEH-M Orientedの概要や評価基準、メリット、また2025年に実施中の補助金情報などを解説します。ZEH-M OrientedやZEH-Mの全体像を正しく理解し、顧客や建築主にわかりやすく伝えるヒントにしてください。
ZEH-M Orientedとは
ZEHやZEH Orientedはよく耳にするものの、「ZEH-M Oriented」はあまり聞いたことがない、という人も多いかもしれません。はじめに、ZEH-M Orientedとは何か、概要を押さえていきましょう。
ZEHとは
※ ZEH補助金
まず、ZEH-Mとは、ZEHから派生して生まれた建築物の省エネ基準の1つです。
ZEHとは、次の2点を実現し、年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロ以下にした住宅を指します。
- 「断熱性能の高い設計」「高効率な住宅設備の採用」による、省エネ基準を上回る高い省エネ性能
- 太陽光発電設備などの導入による創エネ
ZEHは戸建住宅向けの基準であり、集合住宅向けに設定されている基準がZEH-Mです。ZEH-M OrientedはZEH-Mシリーズの1つと考えてください。
2030年には、新築住宅にZEH水準の省エネ性能の確保が求められる予定で、今後もZEHやZEH-Mへの注目は高まり続けると考えられます。
ZEHの種類
必要な断熱性能の確保や創エネの可否は、地域条件・立地・日照条件など、さまざまな要素の影響を受けます。全国すべての地域に対し、一律にZEH水準を求めるのは現実的ではありません。諸条件に合わせて弾力的に運用できるよう、ZEHにはいくつかの種類が設けられています。
以下は、普及しているZEHの種類と要件をまとめたものです。
種類 | 要件 |
ZEH | 省エネ+創エネにより、一次エネルギー消費量100%以上を達成 |
Nearly ZEH |
省エネ+創エネにより、一次エネルギー消費量削減率75%以上を達成 創エネを除いた場合は20%以上 |
ZEH Ready |
省エネにより、一次エネルギー消費量を50%以上削減 創エネの有無は問わない |
ZEH Oriented |
省エネにより、一次エネルギー消費量を20%以上削減 創エネの有無は問わない |
ZEH-M Orientedの定義
集合住宅向けのZEH-Mも戸建住宅と同様の考え方で定められています。高い省エネ性能と創エネにより、年間の一次エネルギー消費量収支をゼロ以下にする住宅が、ZEH-Mです。
また、ZEH-Mは集合住宅の階数によって、複数の種類に分けられています。
種類 | 階数 |
ZEH-M | 1~3階建て |
Nearly ZEH-M | 1~3階建て |
ZEH-M Ready | 4~5階建て |
ZEH-M Oriented | 6階建て以上 |
各ZEH-Mの一次エネルギー消費量削減率はZEHに準じます。
次章で詳しく解説します。
ZEH-M Orientedが始まった背景
建築物の省エネ化を推進するため、戸建住宅向けにはZEH、非住宅建築物向けにはZEBと定義が進む中、マンション向けに作られた基準がZEH-Mです。
ただし、マンションは高層になるほど、ZEH化が困難になるという課題がありました。住棟に入る住戸が多く使用エネルギー量も比例して増え、限られた屋上面積に創エネ設備を設置しても、マンション全体に必要な創エネができないことが理由です。
そこで、住戸数が多い高層マンション向けに、省エネ性能のみで評価するZEH-M Orientedが登場しました。
ZEH-M Orientedの評価基準
ZEH-Mでは、住棟(複合建築物の住宅用途部分)と住戸は別々に評価されます。ただし、評価の根拠となる基準は同一です。他のZEH-Mシリーズと比較しながら、評価基準を見てみましょう。
ZEH-Mシリーズの評価基準
ZEH-Mシリーズの評価基準は、以下のとおりです。
省エネ度 | ZEH-M種類 | 一次エネルギー消費量削減率(省エネのみ) | 一次エネルギー消費量削減率(省エネ含む) | 対象建築物の階数 |
低 | ZEH-M Oriented | 20%以上 | - | 6階建て以上 |
↑ | ZEH-M Ready | 20%以上 | 50%以上、75%未満 | 4階建以上、5階建以下 |
↓ | Nearly ZEH-M | 20%以上 | 75%以上、100%未満 | 3階建以下 |
高 | ZEH-M | 20%以上 | 100%以上 | 3階建以下 |
なお、ZEH-Mの住棟評価では、集合住宅の全住戸が強化外皮基準を満たしていることが必要です。また、建築物のエネルギー効率(BEI)は共用部含む住棟全体で評価します。
ZEH-M Orientedの強化外皮基準
ZEH-Mで求められる断熱性能(強化外皮基準)はZEHに準じます。具体的な値を以下に示しました。全住戸が以下のUA値を達成しなければなりません。
地域区分 | 1・2 | 3 | 4~7 |
UA値 | 0.40以下 | 0.50以下 | 0.60以下 |
なお、この値は断熱等性能等級でいうところの「5以上」と一致します。
ZEH-Mの一次エネルギー消費量の計算
ZEH-Mにおける一次エネルギー消費量の計算は、住戸部分と非住戸部分で異なる手法を用います。
住戸部分には、住宅計算法を用います。共用部は、非住宅計算法を用います。いずれも対象となる部分は、暖冷房、換気、給湯、照明です。その他の一次エネルギー消費量は除かれます。
ZEH-Mで加算できる再生可能エネルギー
ZEH-Mの省エネ計算に加算できる再生可能エネルギーは、敷地内(オンサイト)に設置された設備のみです。敷地外の太陽光発電システム等の創エネ分は、加算できません。
ZEH-M Orientedを取得するメリット
マンションでZEH-M Orientedを取得するメリットを、居住者向け・マンションオーナー向け・施工会社向けの観点から解説します。
【居住者】生活ランニングコストを節約できる
断熱性能の高い住宅は、室内温度が外気の影響を受けにくくなります。また、室内から外に温度が逃げにくくもあり、季節を問わず快適な室温を維持しやすいという特徴があります。
冷暖房の効率が上がり、少ない電力で快適な室温を保つことが可能になり、日々の生活に欠かせない光熱費の節約に貢献します。光熱費の高騰が続く昨今、ランニングコストを削減できる点は、入居者にとって魅力的なポイントとなるでしょう。
【オーナー】物件価値およびマンション市場での競争力が向上する
※ ZEB・ZEH-Mの普及促進に向けた今後の検討の方向性について|ZEB・ZEH-M委員会
今後、住宅市場はZEH水準が標準となっていきます。一方で、2023年時点でZEH-Mを取得した新築集合住宅は全体の35%(ZEH-M Orientedは28%)に過ぎません。
ZEH-M Orientedを取得し、省エネ性能を客観的に示す根拠を持っておくことで、物件の価値向上と、マンション市場での競争優位性の確保が期待できるでしょう。
【施工会社】施工実績となり、アピール材料にできる
ZEHの施工率は、建築事業者区分によって差があります。戸建住宅を数多く手掛けるハウスメーカーでは7割以上の新築住宅をZEH化している一方で、マンションが主力のデベロッパーでは5割、ビルダー・工務店のZEH化率は20%以下となっています。(2023年実績)
ZEHの施工にはノウハウが必要です。今後、建築市場においてZEH水準が標準となっていくことを考えると、ZEHの施工実績を積みあげておくことは、契約獲得にもポジティブな影響を与えるでしょう。
【2025最新】ZEH-M Orientedが受けられる補助金
2025年に実施中のZEH-M Orientedを対象とした補助金情報を2つ紹介します。
高層ZEH-M支援事業
高層ZEH-M支援事業は、マンションを施工する建築主・デベロッパーに紹介したい支援事業です。
SII(一般社団法人環境共創イニシアチブ)にZEHデベロッパーとして登録し、政府推進の「デコ活」への賛同、もしくはデコ活応援団への参画のどちらかを行っていることが要件です。
補助率は、補助対象経費の1/3以内で、補助額には上限があります。
補助対象経費は、設計費もしくは設備費、工事費です。
子育てグリーン住宅支援事業
ZEH水準以上の賃貸マンションを建築する建築主や賃貸オーナーは、子育てグリーン住宅支援事業も利用できます。ZEH水準の賃貸住宅を建築し、子育て世帯・若者夫婦世帯を対象に入居者を募集する集合住宅が対象です。住宅内の事故防止や子どもの様子の見守りなどに関する技術基準も設定されているため、注意してください。
補助額は、ZEH水準住宅で1戸あたり40万円です。事前相談が必要であり、相談期間は2025年10月31日までとなっています。
ご紹介した補助金情報は2025年度の内容を基にしていますが、補助金は年度ごとに要件や内容が見直されることがあります。
申請を検討される際は、必ず各事業の公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。
まとめ
ZEH-M Orientedは、集合住宅向けのZEHシリーズである「ZEH-M」の1種です。6階以上の高層マンションに適用され、再エネの有無は問いません。断熱性能と設備効率の向上で、省エネ基準より20%以上の一次エネルギー消費量削減に成功したマンションに与えられます。
ZEH-Mを対象とした補助金もありますが、ZEH-Mの普及はこれからといったところです。今後、住宅分野でのZEH水準標準化が見通されています。
今後の高層マンションの設計・施工に向けて、ZEH-M Orientedの正しい知識を確認しておくようにしましょう。
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