ZEB Orientedは、非住宅建築物の省エネ性能を高める制度「ZEB」の1種です。
ただ、ZEBには複数の種類があり、その違いや認定基準が分かりにくいと感じる方も多いかもしれません。
今回はZEB Orientedに注目し、具体的な基準から設置された背景、基本的な考え方などを詳しく解説します。ZEBおよびZEB Orientedを正しく理解し、設計や顧客営業に活かすヒントにしてください。
ZEB Orientedとは
はじめに、ZEB Orientedの概要を解説します。
ZEBとは何か
ZEB Orientedは、ZEBの1種です。ZEBは室内環境の快適さを損なわず、外皮性能の強化・高効率設備の導入によって、一次エネルギー消費量の大幅削減を実現した建築物です。
ZEBは非住宅が対象で、住宅ではZEHが同じ主旨で用意されています。
ZEB Orientedの定義
ZEB Orientedは、延床面積が10,000m2以上の大型非住宅建築物のためのZEBです。建築物の用途によって一次エネルギー消費量を30〜40%削減する措置が必要となります。
また、用途ごとの削減量達成に加え、未評価技術導入によるさらなる省エネも求められます。
大規模建築物は環境に与える負荷が大きい一方で、さまざまな理由から省エネの実現が容易ではありません。このジレンマを解消するために設けられた制度がZEB Orientedです。
その他のZEB種類
ZEBは省エネと太陽光発電設備などによる創エネにより削減できる一次エネルギー消費量によって、4種類に分けられます。ZEB Oriented以外の3種類は下表のとおりです。
ZEB種類 | 一次エネルギー消費量 |
ZEB | 省エネ+創エネ=100%以上削減 |
Nearly ZEB | 省エネ+創エネ=75%以上削減 |
ZEB Ready | 省エネのみで50%以上削減 |
ZEB Orientedの評価基準
ここからは、ZEB Orientedの考え方や評価基準を詳しく解説します。
ZEB Orientedに求められる省エネ
ZEB Orientedは、延床面積10,000m2以上の大規模建築物に適用されます。建築物全体で達成すべき一次エネルギー消費量削減率は、建築物の用途別に定められます。
建築物用途 | 一次エネルギー消費量削減率 |
事務所等、学校等、工場等 | 40%以上 |
ホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等 | 30%以上 |
ZEB Orientedの省エネは2段階で考える
前項で解説した一次エネルギー消費量削減率は、建築物全体での省エネ指標です。ZEB Orientedのポイントは、この削減率を2段階で構築できる点に特徴があります。
まず、既存技術(外皮性能向上・高効率設備導入)で、事務所・学校・工場等の用途では40%以上/ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所等の用途では30%以上の省エネを実現します。
その上で、未評価技術を導入することで、ZEB Orientedと認められます。
ZEB Orientedで導入する「未評価技術」とは
ZEB Orientedでの活用が想定される未評価技術とは、公益社団法人空気調和・衛生工学会が、省エネ効果が高いと認めた技術です。具体的には、以下の技術です。
- CO2 濃度による外気量制御
- 自然換気システム
- 空調ポンプ/ファン制御の高度化
- 冷却塔ファン・インバータ制御
- 照明のゾーニング制御
- フリークーリング
- デシカント空調システム
- クール・ヒートトレンチシステム
- ハイブリッド給湯システム等
- 地中熱利用の高度化
- コージェネレーション設備の高度化
- 自然採光システム
- 超高効率変圧器
- 熱回収ヒートポンプ
ZEB Orientedと太陽光発電設備
ZEBおよびNearly ZEBでは、太陽光発電などの創エネ設備が必須です。ただし、ZEB Orientedは対象となる建築物の特性も踏まえ、創エネ設備を要件としていません。
諸事情により太陽光発電設備を搭載できない建築物も、ZEB Orientedの認定を申請できる可能性があります。
ZEB Orientedが誕生した背景
他のZEBとは要件がやや異なるZEB Orientedが生まれた社会的背景を解説します。
ZEB Orientedは、省エネ化が困難な大規模建築物向けの基準
ZEBは、ZEB・Nearly ZEB・ZEB Readyの3種類でスタートしました。
ZEBの実績増加につれ、ある問題が表面化します。それは、敷地面積の大きな建築物や高層建築物など、ZEB Readyさえも達成できない建築物が想定以上に多いことです。
一方で、大規模建築物はエネルギー消費量が大きく、環境に与える負荷も無視できないという問題もあります。事実、延床面積10,000m2を超える建築物は、国内のエネルギー消費量の36%を占めるともいわれます。
そこで、大規模建築物もZEBを達成できるよう、ZEB Orientedが新設されました。
大規模建築物でZEB Readyの達成が困難な理由
大規模建築物でZEB Readyすら達成が困難だった理由は2つあります。
まず、大規模建築物は導入する設備数が膨大で、効率化に限界がある点です。また、太陽光発電設備の搭載に制約があり、創エネが難しいという事情もあります。とくに高層建築物では、太陽光発電設備を設置できる屋上部分の面積に対して使用エネルギーが多く、使用エネルギー量と創エネの相殺ができないという問題が見られました。
さらに既存建築物では、ZEB化への対応にコストがかかりすぎる、工事に際してテナントへの影響があるなどの課題も指摘されています。
ZEB Orientedの誕生により、大規模建築物の省エネ化を促進
ZEB Readyは、基準に対して少なくとも50%の省エネを求めます。一方、ZEB Orientedは、30〜40%の省エネで設計の進行が可能です。
ZEB Orientedの登場により、大規模建築物の省エネ化が進めやすくなったのは、明らかな効果といえるでしょう。実際、ZEB Oriented認証を受けた建物は年々増加しています。
ZEB Orientedで建築するメリット
手掛ける建築物がZEB Orientedの基準を満たすと、どのようなメリットが得られるのでしょうか。4つの観点から解説します。
環境負荷を軽減できる
ZEBは、建築物が使用するエネルギー量を抑制し、環境負荷を軽減させる目的で始まりました。エネルギー消費量の多い大規模建築物でZEB Oriented化が進めば、排出する温暖化ガスを削減でき、カーボンニュートラルの達成にも寄与できます。
建築物のエネルギーコストを削減できる
ZEB Orientedは、従来の建築物と比べ省エネ性能に優れています。省エネとは使用エネルギーが少なくて済むということ。建築物にかかる光熱費などのエネルギーコストを削減できるでしょう。テナント入居者にもメリットとして訴求できるポイントです。
建築物の価値が高まる
世界的に環境問題や省エネへの関心が高まる中、環境負荷の軽減とエネルギーコスト抑制を両立したZEB Orientedは、建築物の資産価値を向上させます。投資家に与える印象も良くなり、建築物の効果的な運用にも貢献します。
将来的なZEB化への備えとなる
建築物の設計時点でZEB Orientedを満たしておけば、将来より高い水準のZEBに改修が必要になった折も、円滑に作業を進められるでしょう。
ZEB Orientedが対象の補助金
2025年6月時点で利用できる補助金を4つ紹介します。
ZEB実証事業(経済産業省)
経済産業省のZEB実証事業では、ZEBの普及をめざし、水準に応じた補助金を用意しています。ZEB Orientedは新築・既存建築物のZEB Oriented化ともに2/3以内の補助金を申請できます。
断熱材・窓や空調、換気、照明、給湯、昇降設備等が補助対象です。
公募期間は以下のとおりです。
- 1次公募:2025年6月11日~7月9日
- 2次公募:2025年8月29日~9月26日
ZEB普及促進支援事業(環境省)
地方公共団体の建築物のZEB OrientedではZEB普及促進支援事業が利用できます。断熱材・窓や空調、換気、照明、給湯、昇降設備等が補助対象となり、新築建築物の1/4以内で補助が受けられます。
民間事業と既存建築物は対象外です。
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業【脱炭素ビルリノベ】
本補助金では、先進モデル導入事業のみが申請を受け付けています。断熱材や窓、高効率空調設備、高効率照明設備、高効率給湯設備等が対象で、2/3まで補助が受けられます。
中小規模事業所のゼロエミッションビル化に向けた支援事業(東京都)
地方自治体が独自にZEB Orientedを支援するケースもあります。東京都は既存建築物のZEB化に対する補助金を用意しています。ZEB Oriented相当の省エネ性能を有する中小規模の建築物に、最大2/3まで補助金を交付します。
ZEB Oriented取得・申請の流れ
ZEB Orientedの認証取得手続きは、4つの段階に分けて考えます。
- ZEB Orientedの実現可能性を探り、設計する
- 申請に必要な書類や図書を用意する
- 申請する
- 建築物の維持と修繕を図る
ZEBの申請には、ZEBの専門家であるZEBプランナーの活用が近道です。また、申請に欠かせない省エネ計算を外注すると、円滑かつ効率的な申請が可能になります。
まとめ
ZEB Orientedは、大規模建築物を対象としたZEB認証の1つです。使用エネルギーが多く、環境への負荷が懸念される大規模建築物でも、ZEB化を促進しやすくするために新設されました。
地球温暖化対策やカーボンニュートラルへの貢献は、建築業界が無視できない課題です。ZEB Orientedの認知拡大と普及が、ますます期待されます。
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