Nearly ZEBは、ZEBに限りなく近い性能を持つ建築物に与えられる認証です。ZEBと異なり、建築物が使用するエネルギー量の削減率が100%でなくても良いため、多くの建築物で取得されています。
本記事では、Nearly ZEBの具体的な評価基準と、他のZEBとの違いを分かりやすく解説します。また、2025年時点で活用できる補助金情報や、Nearly ZEBのメリット、申請の流れもまとめました。
Nearly ZEBを正しく理解し、設計や顧客への説明などに活用してください。
Nearly ZEBとは
はじめに、Nearly ZEBの概要を解説します。
ZEBとは
※ZEBの定義|環境省(以下同)
Nearly ZEBはZEBの1種です。ZEBは先進技術を駆使し、室内環境の快適性と省エネ性を両立した非住宅建築物の認証制度です。省エネと創エネを組み合わせ、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロになるよう設計されます。
一般住宅より規模が大きくなりやすい非住宅建築物は、エネルギー消費量が大きくなりがちです。カーボンニュートラルの達成に向け、国をあげてZEBの普及が進められています。
Nearly ZEBの定義
Nearly ZEBは、多様な建築物を包括できるよう設定されたZEBの評価方法の1つです。Nearlyは「ほとんど」という意味で、Nearly ZEBはZEBに近い性能を持つ建築物という位置づけです。
ZEBが年間の一次エネルギー消費削減量が基準比で100%になる設計であることに対し、Nearly ZEBは75%以上(省エネ50% + 創エネ25%)の削減で認められるという違いがあります。立地や設計の都合で、再生可能エネルギーの容量が限られる建築物に適しています。
その他のZEB種類
ZEBには、あと2つの評価方法があります。
ZEB Readyは、断熱性を高め、高効率設備を導入した設計により、年間の一次エネルギー消費量収支を50%以下に削減した建築物です。創エネ設備導入は必須ではありませんが、将来的なZEB化を見越せる状態であることが求められます。
ZEB Orientedは、延床面積が10,000m²以上の大規模な建築物など、ZEB化のハードルが高い建築物を対象とした区分です。
年間の一次エネルギー消費量収支は、30〜40%の削減が求められます(建築物用途による)。また、省エネ性能向上が期待される未評価技術の採用も必要です。
ZEB Orientedは、多くのエネルギーを消費する大規模建築物や、多様な用途への対応が必要な建築物で選ばれる傾向があります。
Nearly ZEBの評価基準
Nearly ZEBの評価基準を、基準値とともに詳しく解説します。
建築物全体で評価する場合
対象建築物(非住宅部分)の全体を評価する場合、基準値からの一次エネルギー消費量削減率は以下のとおりです。
- 省エネのみで50%
- 創エネを加えて75%以上
その他の要件はありません。
建築物の部分で評価する場合
対象建築物(非住宅部分)の延床面積が10,000m²以上である場合、部分での評価が可能になります。部分評価の場合の、基準値からの一次エネルギー消費量削減率は、全体評価の場合と同様です。また、建築物全体で20%以上の一次エネルギー消費量削減(創エネを除く)を達成しなければなりません。
ZEB評価対象の一次エネルギー
ZEBで評価対象となる一次エネルギー消費量は、以下のとおりです。
- 空調
- 換気
- 照明
- 給湯
- 昇降機
- 事務、情報機器等
以上を加算し算出される基準一次エネルギー消費量から、効率化や創エネを減じた設計一次エネルギー消費量が、基準値を下回らなければなりません。
Nearly ZEB取得のメリット
Nearly ZEBを取得するメリットを3つ解説します。
Nearly ZEBを正しく理解し、顧客への説明に生かしてください。
環境への貢献とカーボンニュートラルの推進
Nearly ZEBは、わずかに外部のエネルギーを使用しますが、基準と比べ使用するエネルギー量を大幅に削減できます。エネルギー使用にともなう二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑制でき、カーボンニュートラルの実現に貢献します。
光熱費の削減によるランニングコスト抑制
Nearly ZEBは、使うエネルギー量が少なくて済むことに加え、創エネ設備も搭載します。光熱費を大きく削減でき、ランニングコストも抑えられるでしょう。
オーナーやテナント入居者に訴求しやすい魅力的なメリットです。
快適性と居住性の向上
Nearly ZEBを備えた建築物は、断熱性能にすぐれています。室温が外気の影響を受けにくく、快適に過ごせるメリットがあります。また、空調も適切に管理され、利用する人の心地よさにも寄与します。
【2025最新】Nearly ZEBが受けられる補助金
ZEBを普及させるため、国や自治体はさまざまな補助金を用意しています。
2025年時点で、Nearly ZEBが申請できる補助金を紹介します。
ZEB実証事業(経済産業省)
Nearly ZEBでは、延床面積10,000m²以上の新築建築物、および既存建築物の改修に対し、補助率は、2/3以内で補助金が交付されます。地方公共団体の建築物は対象外です。
公募は2段階に分けて行われます。
- 1次公募:2025年6月11日(水)~7月9日(水)
- 2次公募:2025年8月29日(金)~9月26日(金)
交付決定時期は、1次が8月下旬、2次が11月中旬の予定です。
1次・2次とも、公募期間が1か月ほどしかありません。申請を希望する事業者は、書類をあらかじめ揃え、確認しておくなど、事前にできる準備を進めておくと良いでしょう。
ZEB実証事業の補助対象は、以下のとおりです。
- 設計費
- 工事費
- 設備費(外皮、空調・換気、照明、BEMS、給湯、蓄電 など)
ZEB普及促進支援事業(環境省)
ZEB普及促進支援事業におけるNearly ZEBは、延床面積を問わず新築建築物の1/3まで、既存建築物の2/3まで補助を受けられます。補助額の上限は、3億〜5億円が予定されています。ただし、延床面積10,000m2以上の新築建築物、延床面積2,000m2以上の既存建築物の改修は地方公共団体のみが対象となっており、民間の事業者・団体は対象外である点に、注意してください。
LCCO2削減型の先進的な新築ZEB支援事業(環境省)
LCCO2削減型の先進的な新築ZEB支援事業は、新築建築物のZEB化を支援する補助金です。Nearly ZEBの補助率は1/2、補助の上限は5億円です。
ただし、延床面積10,000m2以上の新築建築物は、地方公共団体のみが対象となっており、民間の事業者・団体は対象外です。
2025年度の公募期間は終了しています(2月18日〜4月30日)。2028年まで続く予定の補助金であるため、次年度の情報もチェックしてみてください。
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業【脱炭素ビルリノベ】
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業は、既存建築物の炭素排出量削減をめざして始まった補助金です。「業務用建築物の脱炭素改修先進モデル導入事業」が、新規案件を募集しています。
脱炭素のための改修内容に応じて、1/2~1/3の補助金が交付されます。モデル実証事業に協力する場合、補助率が2/3まで上がります。
既存建築物の断熱窓への改修、高効率空調設備や照明設備への入れ替えなどを予定している事業者に、活用をおすすめします。
中小規模事業所のゼロエミッションビル化に向けた支援事業(東京都)
地方自治体がZEB化の補助金を用意している例もあります。
東京都は、中小規模事業所のゼロエミッションビル化に向けた支援事業と題し、ZEB化を支援します。既存建築物の改修もしくは、基準を満たす設備の導入が補助金交付要件で、最大で補助率2/3(上限1億5,000万円)が交付されます。
補助金額の大きなゼロエミビル化設備導入支援は、ZEB Oriented相当の性能が求められます。
地方自治体ごとに補助金の有無や内容は異なります。詳しくは、事業を行う地域のホームページをチェックしてください。
Nearly ZEBの申請・取得の流れ
Nearly ZEBの取得には、所定のプロセスを経た上で、申請手続きが必要です。Nearly ZEB取得までの流れを解説します。
なお、本章で解説する流れは、すべてのZEBに共通します。
Nearly ZEB取得の準備
新築では、設計段階からNearly ZEBを満たす仕様で設計します。既存建築物をZEB化する場合は、まずZEB化が可能かどうか調査し、可能なら改修設計に進んでください。
新築・既存のいずれも、ZEBの実現をサポートする専門家「ZEBプランナー」と協働すると、準備を円滑に進められるでしょう。
必要な資料・図書の準備
ZEBの申請には、3種類の計算結果資料が必要です。
- 基準一次エネルギー消費量
- 再生可能エネルギー量
- BEI
これらのほかに、建築物の地域や用途、面積、設備仕様など、多くの資料や図書が必要になります。なお、ZEBは施工前に検査が行われ、施工期間も定められます。一つひとつのプロセスをスケジュール通りに進めるためにも、省エネ計算の外注も検討してみてください。
その後、申請に進みます。省エネ計算を外注できる企業の中には、申請手続きまでワンストップで依頼できるところもあります。自社のリソースをコア業務に適切に振り分けるためにも、一気貫通の外注もおすすめです。
まとめ
Nearly ZEBは、「Nearly(ほとんど)」の言葉が示すとおり、限りなくZEBに近い性能を備えた建築物です。創エネ設備の搭載が必須ですが、基準比で75%削減できれば認証がとれるため、創エネ設備の設置に制約がかかる建築物におすすめです。
Nearly ZEBが対象の補助金も、多数用意されています。
施主の理解を得るためにも、こうした補助金情報も適宜、活用してみてください。
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