性能に優れた住宅の代名詞的存在といえば、長期優良住宅とZEHでしょう。
では、この両者の違いは何でしょうか。
今回は長期優良住宅とZEHの違いを、具体的に詳しく解説します。
記事の最後ではそれぞれをおすすめしたい顧客タイプもまとめました。
長期優良住宅とZEHを正しく把握し、顧客への提案やクロージングに活用してください。
長期優良住宅とZEHの基本知識
まず、制度の目的や基本的な知識を解説します。
長期優良住宅とは
長期優良住宅は、長期間にわたって良好な状態で住み続けられる措置が施された住宅です。想定される使用年数は75〜90年で、3世代が使える家を目指します。
新築の長期優良住宅認定基準は10項目と、多方面の措置が求められます。
ZEHとは
ZEHは年間のエネルギー収支ゼロを実現した住宅です。使用エネルギーを節約するための高断熱仕様や高効率設備の導入、エネルギーを創り出す太陽光発電設備などの搭載が求められます。
長期優良住宅とZEH【性能面】の違い
ここからは、長期優良住宅とZEHの違いをさまざまな側面から解説します。
まずは、性能面を比較します。
省エネ性能
※ 画像:住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設|国土交通省
実は長期優良住宅とZEHは、断熱性能や省エネ性能では差がありません。どちらも「断熱等性能等級5以上」「一次エネルギー消費量等級6」の基準達成が必要です。
ちなみに、断熱等性能等級5以上・一次エネルギー消費量等級6は、「ZEH水準」と呼ばれる基準です。国は2030年にはすべての新築住宅がZEH基準に適合するよう方針を固めています。
断熱性能に関しては、もう1つ押さえたい情報があります。2022年10月、ZEH水準より上位の等級が新設されたことです。世界的な脱炭素の動きに合わせ、省エネ性能の高い住宅の普及促進を目的としています。これからの建築会社には、従来よりはるかに高い性能を持つ住宅を設計するノウハウが求められます。
耐震性能
※ 画像:「耐震性能を等級で確認して、安心の住まいづくり」|国土交通省
耐震性能は、長期優良住宅とZEHで異なります。
- 長期優良住宅:耐震等級3が必須(2022年10月改正)
- ZEH:耐震性の基準なし
長期優良住宅は、地震大国である日本で長く安心して住み続けられる家づくりを目指しています。現行制度の最高ランクである耐震等級3を備えなければなりません。
※ 耐震等級3は、耐震等級1(現行の建築基準法が定める最低限の耐震性能)の1.5倍の地震に遭っても、建物がすぐには倒壊・損壊・損傷しないレベルの耐震性です。
ZEHは、2025年5月時点では、耐震性能に関する基準はありません。ただし、厚い断熱材やトリプルガラスが採用され、太陽光パネルを搭載する近年の住宅は、家全体の重量が増しています。住宅の重量化を踏まえ、2025年4月には『新耐震基準(壁量基準・柱の小径基準の見直し)』が施行されました。壁量基準と柱の小径基準の算出方法が変わっていますので、詳細を確認しておくと良いでしょう。
長期優良住宅とZEH【認定要件】の違い
続いて、長期優良住宅とZEHの認定要件の違いをまとめます。
長期優良住宅の認定要件
長期優良住宅の認定制度は、新築・増改築・既存・新築木造軸組の4種類が用意されています。わかりやすいように、新築住宅の認定要件を下表に示します。
〈長期優良住宅(新築)の認定要件〉
項目 | 内容 | |
1 | 劣化対策 | 劣化対策等級(構造躯体等級3)構造の種類に応じた基準 |
2 | 耐震性能 | 耐震等級3 |
3 | 省エネルギー性 | 断熱等性能等級5 一次エネルギー消費量等級6 |
4 | 維持管理・更新の容易性 | 維持管理対策等級(専用配管)3 |
5 | 可変性 | 躯体天井高2,650mm以上 |
6 | バリアフリー性 | 高齢者等配慮対策等級(共用部分)3 |
7 | 居住環境 | 地区計画、景観計画、条例などの制約を受ける場合、内容と調和をはかる |
8 | 住戸面積 | 戸建住宅 75m2以上 共同住宅 40m2以上 |
9 | 維持保全計画 | 指定箇所の定期点検・補修計画 |
10 | 災害配慮 | 災害発生リスクに応じた措置 |
ZEHの認定要件
※ 画像:【参考】住宅における外皮性能|国土交通省
ZEHの要件は以下の4つです。外皮の断熱性能を大幅に向上させ、かつ高効率な住宅設備を導入して、年間の一次エネルギー消費量収支をゼロにできる設計であれば、ZEHと認定されます。
- 強化外皮基準(例:東京6地域なら、UA値≦0.6)
- 基準一次エネルギー消費量をH25基準より20%以上削減
- 再生可能エネルギーシステムの導入
- 以上の搭載により、基準一次エネルギー消費量から100%削減
再生可能エネルギーシステムは、ZEHにおいて必須要件です。ZEH並みの性能を持つ住宅、という意味で使われる「ZEH水準」の住宅には必須ではありません。
長期優良住宅とZEHは両立できるか
長期優良住宅のほうが認定要件が多岐に渡り、ZEHの要件を包括しています。長期優良住宅を設計すれば、結果的にZEH要件も満たせることになります。
ただし、補助金はどちらか一方のみしか申請できません。長期優良住宅とZEHの補助金に関しては、次章で詳しく解説します。続きをご覧ください。
長期優良住宅とZEH【補助金・コスト】の違い
本章では、長期優良住宅とZEHの違いを補助金・コストの面から解説します。
長期優良住宅が受けられる補助金
※画像:住宅省エネ2025キャンペーン
長期優良住宅は、以下の補助金を利用できます。(2025年5月時点)
補助金名称 | 対象要件・補助金額 |
子育てグリーン住宅支援事業 |
80万円/戸(新築の場合) ※ 子育て世帯・若者夫婦世帯のいずれか |
給湯省エネ2025事業 |
エコキュート:6万円/台 ハイブリッド給湯機:8万円/台 エネファーム:16万円/台 など |
先進的窓リノベ2025事業 |
内窓設置、外窓交換、ドア交換などのリフォーム 工事により補助金は変動 |
DR補助金 |
家庭用蓄電システムの新規導入 60万円/申請 |
上記は国庫が財源の補助金です。各地方自治体が補助金を用意するケースも見られるため、確認しておくと良いでしょう。
ZEHが受けられる補助金
ZEHも、長期優良住宅とほぼ同様の補助金を利用できます。1点だけ異なるのは、ZEH向けの子育てグリーン住宅支援事業の金額です。長期優良住宅は1戸あたり80万円が交付されますが、ZEHは1戸あたり40万円(新築の場合)となります。
住宅ローン控除と税金の優遇制度
長期優良住宅とZEHは、住宅ローン控除や税金面でも優遇措置があります。
下表をご覧ください。
長期優良住宅 | ZEH | |
住宅ローン減税 |
控除率0.7% ・最大13年間 ・借入限度額は原則4,500万円、子育て世帯・若者夫婦世帯は5,000万円 |
控除率0.7% ・最大13年間 ・年間の合計所得2,000万円以下 ・借入限度額は省エネ性能によって変動 |
住宅ローン金利優遇 |
フラット35Sを利用可 当初5年間は金利を年0.75%引き下げ フラット35子育てプラス利用で当初5年間の金利を年1.0%引き下げ |
フラット35Sを利用可 年0.25%~0.75%金利を引き下げ |
地震保険料割引 | 耐震等級3/免震建築物で保険料50%割引 | 耐震等級3を取得すれば、保険料割引あり |
長期優良住宅のみ、登録免許税・不動産取得税・固定資産税の軽減も受けられます。
詳しくは国税庁ホームぺージなどでチェックしてください。
長期優良住宅とZEH【申請手続き】の違い
長期優良住宅とZEHの違いは、申請手続きの仕方にも見られます。
長期優良住宅の申請手続き
長期優良住宅の認定は所轄行政庁が行います。行政庁への申請の前に登録住宅性能評価機関へ、長期優良住宅かどうかを確認してもらう工程が入ります。登録性能評価機関にて「長期優良住宅である」との確認がとれた後、所轄行政庁に必要書類を添えて申請し、認定を得ます。
また、竣工後も、維持保全計画に沿った点検や修繕が必要です。
ZEHの申請手続き
ZEHは、ZEHビルダー/プランナーのいる建築会社にて設計します。
第三者機関等の認定はありません。
ただし、補助金を受ける場合は手続きが必要です。
※ 画像:住宅省エネ2025キャンペーン
2025年度に実施されている子育てグリーン住宅支援事業では、建築会社のグリーン住宅支援事業者への登録が必要です。その上で、補助金を確保するための予約を行い、着工以降で交付を申請します。
住宅竣工後には、完了報告も求められます。
長期優良住宅とZEH【おすすめしたい顧客】の違い
長期優良住宅とZEHはそれぞれどのような顧客に向いているのでしょうか。
おすすめできるタイプの違いを解説します。
長期優良住宅が向いている顧客タイプ
長期優良住宅は、以下の顧客におすすめです。
- コストをかけても、性能や質の良い家が欲しい
- 住みかえる予定がない
- 住宅取得スケジュールにゆとりがある
長期優良住宅は、多岐に渡る要件を満たす必要があります。設計や認定にコストと時間がかかるため、資金面やスケジュールにゆとりがあると建てやすいでしょう。
ZEHが向いている顧客タイプ
ZEHは以下の顧客におすすめです。
- 性能面向上に資金を投下したい
- ランニングコストを抑えたい
- 少しでも補助金を受けたい
ZEHは、長期優良住宅の省エネ性能をさらに特化させた住宅です。
高性能住宅をコスパよく取得したい方におすすめしてみてください。
まとめ
長期優良住宅とZEHはどちらも性能の高さを求めた住宅仕様です。長期優良住宅のほうが「長く使い続けられる」点に軸を置いており、多様な要件を満たす必要があります。
長期優良住宅にもZEHにも、省エネ性能が基準を満たすと示す計算結果が必要です。
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