省エネ基準適合が義務化され、省エネ性能の高い住宅に関心が高まっています。省エネ住宅の代名詞的存在といえば「ZEH」ですが、「ZEH水準」というよく似た言葉もあり、両者の違いに戸惑う場面はないでしょうか。
今回はZEH水準の省エネ住宅について詳しく解説します。ZEHとの違いや、メリットもまとめました。最新の住宅性能に関して正しく理解する一助とし、顧客への説明に活用してください。
ZEHとは
「ZEH“水準”の省エネ住宅とは何か」の把握には、そもそも「ZEHとは何か」の理解が欠かせません。ZEHの定義や認定条件を解説しながら、ZEH水準を考えていきましょう。
ZEHの定義
※ ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)|資源エネルギー庁
ZEHは、住宅の性能を高めて省エネ化し、快適な生活と環境負荷軽減の両立をめざした住宅です。住宅が使用するエネルギー量の節約(省エネ)と、太陽光発電設備等の搭載(創エネ)によって、その住宅の年間一次エネルギー消費量の収支がゼロ以下になるよう設計されます。
ZEHのほか、極めてZEHに近い性能を持つ「Nearly ZEH」や、将来的なZEH化を見据えた性能を備える「ZEH Ready」など、全部で4種類のZEH区分が定められています。
ZEHに必要な4つの要素
住宅がZEHと認定されるための要件は4つあります。
それぞれ詳しく見てみましょう。
(1) 強化外皮基準への適合
強化外皮基準とは、外皮(熱的境界にある外壁・床・天井・屋根・窓・ドアなど)の断熱性能基準です。外皮を通して、熱がどれだけ外に逃げやすいかを表します。熱の逃げやすさはUA値(外皮平均熱貫流率)であらわします。ZEHのUA値は、省エネ基準より高く設定されています。
地域区分 | 断熱等性能等級 | 1地域 | 2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | 8地域 |
ZEHのUA値 | 5 |
0.4 |
0.4 |
0.5 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | - |
省エネ基準のUA値 | 4 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | - |
建築物省エネ法が定める省エネ基準の外皮性能は、断熱等性能等級4に相当します。ZEHは1つ上の断熱等性能等級5を満たす値となっています。
外皮性能を決めるもう1つの要素、ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)でも、ZEHは省エネ基準を下回らなければなりません。省エネ基準のηAC値は、以下のとおりです。
地域区分 | 1地域 | 2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | 8地域 |
ηAC値 | - | - | - | - | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 6.7 |
(2) 一次エネルギー消費量を基準比で20%以上削減
ZEHと認定される2つ目の要件は、高効率設備を導入し、基準と比べて20%(※)以上の一次エネルギー消費量の削減を実現することです。
※創エネによるエネルギー消費量の相殺は含めない
一次エネルギー消費量はBEIと呼ばれる指標であらわします。
- BEI=設計一次エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量
BEIの計算結果が0.8以下であれば、基準と比べて一次エネルギー消費量を20%削減できていることになり、ZEH要件を満たします。
なお、一次エネルギー消費量は等級で表示され、2025年4月以降は一次エネルギー消費量等級4以上が義務化されています。
等級 | BEI | 備考 |
等級6 | 0.8以下 | ZEH |
等級5 | 0.9以下 | - |
等級4 | 1.0以下 | 省エネ基準 |
等級3 | 1.1以下 | 既存建築物のみ |
(3) 再生可能エネルギー設備の導入
ZEH要件の3つ目は再生可能エネルギー設備の導入です。再生可能エネルギーとは、自然エネルギーの利用による発電設備で、環境負荷の軽減が期待されています。おもな再生可能エネルギー設備には水力発電と太陽光発電、風力発電、バイオマス発電があります。
戸建て住宅への搭載は、現実的に太陽光発電設備の一択です。
(4) 一次エネルギー消費量をトータルで100%以上削減
太陽光発電設備を搭載した住宅は、設備が発電した電力を自家消費することで、住宅が使用するエネルギー量をさらに削減できます。
ZEHでは、(1)の断熱性能、(2)の高効率設備による一次エネルギー消費量20%以上の削減と、太陽光発電設備によるエネルギー消費量の削減を合算し、基準比で100%以上のエネルギー使用量削減を見込まなければなりません。
なお、発電した電力を自家消費しても余った場合は、余剰電力として電力会社等に売り、収入にできます(電力の余剰買取制度)。
ZEH水準の省エネ住宅とは
ZEH水準とは、ZEHの要件を完全には満たしていないが、ZEHと同等水準の性能を持つ住宅に与えられる呼称です。
ZEH水準の断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級は、ZEHと同等でなければなりません。両者の違いは、太陽光発電設備の搭載有無にあります。ZEHには太陽光発電設備が搭載必須ですが、ZEH水準は太陽光発電設備が不要とされます。
ZEH補助金の中には、ZEH水準を満たしていれば申請できるものもあります。地域事情や建築予算等の都合があり、太陽光発電設備の搭載が困難な住宅は、ZEH水準を目指しても良いでしょう。
これからのZEH・ZEH水準
ZEHやZEH水準はこれからもニーズが高まると考えられます。
今後の展望を押さえておきましょう。
2025年4月から省エネ基準適合義務化
2025年4月、建築物省エネ法が改正され、原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化されました。
省エネ基準と、その達成が望ましいという内容を、これまでは施主に説明するだけで済んでいた工程が、適合するように設計しなければならなくなったのは、ご存じのとおりです。
住宅の省エネ化推進は、喫緊の課題である地球温暖化対策の一環です。2015年のパリ協定で決定した温室効果ガス排出量の削減に向けて、住宅部門は2013年を基準とし、40%以上の削減が求められています。
2030年までにZEH水準の義務化
省エネ基準適合義務化は、建築業界全体の省エネ化の入り口に過ぎません。政府は2030年までに、新築住宅の性能を少なくともZEH水準にするように計画しています。省エネ基準はこれからも段階的な引き上げが予定されており、新築住宅のZEH水準化は早まる可能性もあります。
太陽光発電設備の導入拡大による化石エネルギーからの脱却、高効率給湯器・蓄電池等の導入拡大による使用エネルギーの削減、さらに建築物のライフサイクル全体で二酸化炭素の排出量を削減することなどは、住宅業界全体で取り組むべき課題といえます。
ZEH水準の住宅を建てるメリット
ZEH水準の省エネ住宅を建築するメリットを3つ解説します。
ZEH水準の住宅は建築コストがかかりがちですが、コストを上回るメリットをしっかりと理解し、顧客の理解を得る説明の一助としてください。
住宅のランニングコストを抑えられる
ZEH水準の住宅は、断熱性能の高さや住宅設備の高効率化により、使用するエネルギー量を大きく削減します。日々の生活にかかるランニングコスト、とくに光熱費を抑えられる点は、大きなメリットでしょう。
省エネ基準の住宅とZEH・ZEH水準の住宅で、年間の光熱費をどの程度削減できるか、国土交通省の試算を紹介します。
2地域(北海道) | 6地域(東京) | |
省エネ基準の住宅 | 346,000円 | 239,000円 |
ZEH水準の住宅 | 250,000円 | 193,000円 |
ZEH住宅※太陽光発電あり | 160,000円 | 153,000円 |
省エネ基準とZEHの差 | 186,000円 | 86,000円 |
※ 参照:家選びの基準変わります|国土交通省
止まらぬ物価高は光熱費にも影響を与えています。
光熱費を削減できることを、数値とともに提示し、顧客の理解を促してください。
居住空間の快適性が高まる
ZEH水準の住宅が持つ高い断熱性により、住宅の室温は外気温の影響を受けづらくなります。朝も夜も、一日を通じて快適な室温が維持されるため、生活の快適性が高まり、さらに健康面でもメリットがあります。
18℃以上の室温で暮らす人と、それ未満で暮らす人を比べると、後者のほうが「心電図の初見に異常がある」「コレステロール値が高い」傾向が強いと判明しています。
室温が維持される住宅では、子どもの喘息リスクやヒートショックの軽減も認められています。
補助金や住宅ローン減税を利用できる
新築住宅を対象とした補助金、住宅ローン減税などの金銭的メリットも、ZEH水準の住宅であることが最低要件となってきています。
2025年に実施中の「子育てグリーン住宅支援事業」は、ZEH水準住宅以上でなければ申請できません。ZEH水準の住宅に交付される補助金額は、40万円/戸。最高の省エネ性能を持つGX志向型住宅の補助額が160万円/戸であることを考えると、政府がいかに住宅の省エネ化に力を入れているかがわかります。
また、住宅ローン減税の利用要件も、現在は省エネ基準適合住宅以上となっています。住宅の性能と借入限度額の対応は以下のとおりです。
認定住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
※上記は子育て世帯・若者夫婦世帯が2024年・2025年に入居する場合の借入限度額です。その他の世帯については上限額が異なります。
まとめ
ZEH水準の省エネ住宅とは、断熱等性能等級、および一次エネルギー消費量等級でZEHと同等の性能を持つ住宅です。太陽光発電設備の搭載は求められません。
ZEH同様に快適でランニングコストを節約した生活が手に入り、補助金や住宅ローン減税も利用できるなど、メリットもさまざまあります。
性能を正しく算定するには、煩雑な省エネ計算業務が必要です。
外注も検討しつつ、ZEH水準住宅の受注・設計を効率良く進めてはいかがでしょうか。
省エネ計算をはじめ、省エネ適判や住宅性能評価など、手間のかかる業務は外注し、自社のリソースをコア業務に集中させれば、円滑な計画進行が期待できるのではないでしょうか。
累計3,000棟以上の省エネ計算実績、リピート率93.7%、審査機関との質疑応答まで丸ごと外注できる環境・省エネルギー計算センターにぜひご相談ください。
※専門的な内容となりますので、個人の方は設計事務所や施工会社を通してご依頼をお願いいたします。
