環境認証制度とは、建築物の省エネ性や快適性、健康性などを第三者機関が評価し、認証を与える仕組みです。2025年の省エネ基準義務化とGX推進法(グリーントランスフォーメーション推進法)の施行により、建築物の「環境性能の見える化」が必須要件となり、建築事業者の競争条件が大きく変化しました。
BELSやZEBなどの環境認証は、設計段階から顧客への提案力・受注力を高める上で、不可欠な要素となっています。
設計者、ゼネコン、デベロッパーの皆様、受注競争の激化と法規制の強化に、新たな収益機会を見出せていますか?2025年の省エネ基準義務化は、多くの事業者にとって課題ですが、これは同時に、環境性能という新たな価値基準で競合をリードする絶好の機会でもあります。環境認証は、もはや単なるコストではありません。賃料プレミアムや資産価値の向上に直結する「戦略的投資」へとその意味合いを大きく変えました。
本記事では、この変化をビジネスチャンスとして捉え、提案力と受注力を飛躍的に高めるために「なぜ今、環境認証取得が重要なのか」を、具体的なメリットと取得手順を交えて解説します。
環境認証が注目を集める背景
環境認証が注目を集める理由は、3つあります。まず、環境認証が世間から求められる背景を理解しましょう。
企業にも環境への配慮が求められている
カーボンニュートラルやESG経営の潮流に加え、公共発注・民間開発ともにZEBやBELS評価を求める案件が増加しています。
環境認証は、単なるCSRではなく、入札条件・金融評価・テナント選定の判断軸として企業活動に組み込まれつつあります。
大企業に対しては、サステナビリティに関する情報開示が法令で定められ始めています。
企業の環境や社会貢献への配慮を判断基準に据える投資家も増えつつあり、企業の環境配慮の姿勢が、業績にも影響する時代になっています。
ESG経営の重要性が高まっている
ESGとは、環境・社会・ガバナンスの頭文字です。自社の利益追求だけではなく、自社を取り巻く多様な世界に目を向け、企業を長く安定的に存続させる経営がESG経営です。ESG経営を実践する企業への評価も年々高まっています。
環境認証取得は企業のESG経営をアピールできる手段であり、注目を集めていると考えられます。
環境認証を取得した建築物の価値が高まっている
環境認証制度には、建築物の性能を評価するものと、企業の環境配慮活動を評価するものとがあります。いずれも、環境に配慮した建築物であるとの証明になります。
近年は、テナント入居先を選ぶ際、環境配慮の度合いも検討材料にする企業が増えているといいます。環境認証の取得は、入居者募集の市場競争でも優勢材料となります。
【国内】おもな環境認証制度8つ
現在、国内で利用されている環境認証制度は8つあります。それぞれの要点を解説します。
BELS
BELSは、建築物の省エネ性能を評価・表示する制度です。一般社団法人住宅性能評価・表示協会が管轄しています。2023年9月に公表された「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度ガイドライン」にも対応しており、国が推奨する第三者評価制度の1つとなっています。
BELSは国内で広く使われている制度で、こちらが2025年8月末時点の交付実績となります。
BELSは設計段階でも容易に評価でき、施主提案や補助金申請の根拠資料として活用できます。
シンプルな算定構造で、初期設計段階の省エネ性能比較やZEB検討にも活用できます。
ZEB
ZEBは、建築物省エネ法のBEIで評価される制度で、ZEB認証を受けるにはBELSの評価取得が前提となります。BEI≤0.50がZEB Ready、再生可能エネルギー導入によりBEI≤0.25でNearly ZEB、BEI≤0.00でZEBとなります。
ZEB Orientedは大規模用途(評価対象用途延べ面積10,000㎡以上)を対象に、用途ごとの省エネ削減率を満たし、未評価技術を導入することが条件です。具体的には、事務所等・学校等・工場等は40%以上、ホテル等・病院等・百貨店等・飲食店等・集会所等は30%以上の削減率が求められます。
e-マーク
eマーク(省エネ基準適合認定マーク)は、既存建築物が省エネ基準に適合していることを示す表示制度で、国交省の省エネ性能表示制度の一つです。省エネ基準に適合している既存建築物に対し、「eマーク」と呼ばれる認証を交付します。
基準となる省エネ性能は、建築物省エネ法が定めています。「建築物の省エネ性能表示のガイドライン」に適合した建築物が表示できます。
BELSが新築・既存の両方を対象とするのに対し、e-マークは既存建築物のみが利用できる点に注意してください。また、eマークが示すのは、あくまでも「省エネ基準への適合」です。さらなる省エネ性能の向上促進をめざす制度ではなく、BELSやZEBのようにランク分け・種類分けはありません。
CASBEE
CASBEEは、環境性能を評価するシステムです。建築物のほか、街区や都市も評価対象とします。対象に応じた評価ツールが用意されており、「CASBEEファミリー」と総称されます。
CASBEEは、環境品質(Q)と環境負荷(L)を総合的に評価する制度で、自治体の容積率緩和や補助制度の要件にも採用が進んでいます。
設計者にとっては、行政手続・建築確認の段階での説明責任を果たせる有効ツールです。
環境負荷と環境品質の観点を明瞭に分け、評価する点が特徴です。
LEED
LEEDはアメリカ発祥の評価制度で、建築物の環境性能を総合的に評価します。CASBEE同様に、建築物から都市まで幅広く評価します。CASBEEが国内でのみ有効な評価制度であることに対し、LEEDは世界で使用可能という違いがあります。
認証基準はアップデートが重ねられており、常に最新の環境問題に対応している点も特徴でしょう。現在の最新バージョンは、「LEED v5」です。
評価項目は以下の9つあり、必須項目はすべて満たす必要があります。加点項目の数(得点)によって、LEED認証ランクが決定します。
- 総合的プロセス
- 立地と交通
- サスティナブル
- 水資源の保全と節水
- エネルギーと大気
- マテリアルと資源
- 室内環境
- 革新的なデザイン
- 地域特性
WELL
WELLもアメリカからやってきた環境認証制度で、基本的な評価方法はLEEDと同様です。必須項目と加点項目があり、必須項目はすべて満たさなければなりません。加点項目の得点に応じて、ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナの4ランクが決まります。
LEEDとWELLはいずれも、外資系テナントや投資家からの信頼指標として高く評価され、海外資本の入る開発案件では入居条件や賃料プレミアムに直結します。
特にWELLは「人の健康・快適性」に焦点を当て、ウェルビーイング経営を推進する企業の誘致戦略にも活用されています。
建築物には省エネ性能だけでなく、過ごしやすい室内環境が欠かせないとの考えに立脚します。「食べ物」「運動」「こころ」といった、医学的観点からも検証される点は、WELLの特徴といって良いでしょう。
また、WELLには有効期限が設けられており、3年ごとの再認証が必要です。
GRESB
GRESBは、欧州年金基金を中心に設立された制度です。BELSやZEB、CASBEEなど、一般的な認証制度は、建築物や都市を評価しますが、GRESBは不動産会社や不動産ファンドを評価します。不動産会社・不動産ファンド単位でESGへの取り組みを評価する認証制度は他に類を見ず、GRESBのユニークさを際立たせるポイントとなっています。
評価対象となる企業・ファンドの種類によって、3種類のGRESBが用意されています。
- GRESBリアルエステイト
- GRESBインフラストラクチャー
- GRESBリアルエステイトデット
もっともよく使われているのは、不動産会社・ファンドを対象とするGRESBリアルエステイトです。
〈TOPIC〉世界の環境認証制度
環境認証は、世界的に注目度の高いテーマです。ここまで紹介してきた国内で利用される環境認証制度のほかにも、世界にはさまざまな認証制度があります。
建築物のエネルギー性能に主眼を置いた評価制度には、ENERGY STAR(アメリカ)、EPC(イギリス)、Green star(オーストラリア)などが見られます。総合的な環境性能を評価する制度として、NABERS(オーストラリア)、BCA Green Mark(シンガポール)も押さえておくと良いでしょう。
環境認証制度を取得する手順
どの環境認証も、取得する手順はおおむね共通しています。
- 取得する環境認証制度の決定
- 必要な評価の確認と申請準備
- 審査、環境認証の取得
- 環境認証取得後の対応
環境認証制度によって必要な書類手続き方法、取得後にすべき対応などが異なります。詳しくは各環境認証制度の案内をご覧ください。
環境認証を取得するメリット
環境認証の取得によって、2つのメリットを手にできます。
投資家からの評価が高まる
投資家の視線は、企業のESG経営に向いています。実際、2016年時点で世界の資産運用残高の3割は、ESG要素を考慮しているとのデータ(※)もあります。環境認証を取得した建築物は投資家からの評価、そして資産価値が高まると期待できます。
※参照:グローバルな ESG 投資の潮流と日本の展望 |三菱UFJ信託銀行
市場競争で優位に立てる
※『不動産の環境認証の取得状況および経済価値の調査』の実施について|三井住友信託銀行株式会社
環境認証の取得は、賃料単価・稼働率・資産価値の上昇につながります。
三井住友信託銀行の調査では、認証取得済みオフィスは平均賃料が2〜5%上昇したとの結果も。
さらに、ESG投資やグリーンローン・サステナビリティリンクローンの調達条件でも優位に働きます。
入居するテナントの満足度が向上し、結果として経済的なインセンティブも手にできる可能性があります。三井住友信託銀行の調査(2022年)では、既存建築物の環境認証の取得は、賃料を押し上げる効果があったと分かっています。
まとめ
SDGs、そしてESGへの関心が高まる現代において、環境認証制度の取得は喫緊の課題といえます。環境認証(ZEBやBELSなど)は、単なる「評価」ではなく、企業のブランディングと収益性を高める戦略投資です。設計段階から認証取得を見据えた設計支援・シミュレーションを行うことで、顧客への提案価値が格段に高まります。
環境認証制度は、建築物の種類や目的によって、取得すべき制度が変わります。申請手続き等も煩雑なため、専門家の助言を得ることをおすすめします。
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