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CASBEEウェルネス不動産とは? 評価基準・取得メリットを設計・不動産実務の視点で解説

近年、オフィスや商業施設の計画において、「省エネ性能」だけでは不十分とされる場面が増えています。発注者やテナントからは、

  • 働く人の健康や快適性  
  • 生産性への配慮  
  • ESGや健康経営との整合  といった視点を、設計や不動産価値としてどのように説明できるかが求められています。

こうした要求に対し、建築物のウェルネス性能を客観的に可視化できる評価制度として注目されているのが「CASBEEウェルネス不動産」です。

この評価システムは、不動産の環境性能を総合的に評価するCASBEE(キャスビー:建築物総合環境性能評価システム)の一環として開発されました。本記事では、CASBEEウェルネス不動産の概要から評価基準、取得するメリット、そして具体的な申請の流れまで、建築・不動産業界の実務担当者の皆様に役立つ情報を徹底的に解説いたします。

 

目次

CASBEEウェルネス不動産とは?健康・快適性を評価する新たな指標

建築物の環境性能評価システム「CASBEE」の概要

CASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)は、国土交通省の支援のもと、産学官連携により2001年に開発された建築物の総合環境性能評価システムです。建築物の環境品質(Q: Quality)を高めつつ、環境負荷(L: Load)を低減する取り組みを評価し、そのバランスを「建築物の環境効率(BEE)」として指標化します。省エネルギー性能はもちろん、室内環境、資源の有効利用、景観への配慮など多岐にわたる項目を評価するのが特徴です。

CASBEEウェルネス不動産が誕生した背景と目的

CASBEEウェルネス不動産は、人々の健康や快適性、知的生産性に焦点を当てた評価システムとして、2021年に本格運用が開始されました。従来のCASBEEが主に「建築物の環境負荷低減」と「環境品質向上」を評価していたのに対し、CASBEEウェルネス不動産は、特に「利用者の健康と快適性」に特化した評価を強化しています。これは、オフィスビルや商業施設において、単に省エネであるだけでなく、そこで過ごす人々の心身の健康を支え、生産性を向上させる空間デザインが不可欠であるという認識が高まったためです。

評価の目的は、不動産のウェルネス性能を客観的に可視化し、その価値を向上させることにあります。これにより、不動産オーナーは物件の競争力を高め、入居者はより健康的で快適な環境を選ぶことができるようになります。

なぜ今、ウェルネス不動産が注目されるのか:ESG投資と健康経営

CASBEEウェルネス不動産が注目される背景には、大きく二つの要因があります。一つは「ESG投資(環境・社会・ガバナンスを考慮した投資)」の拡大です。投資家は、企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への取り組みを重視するようになりました。不動産分野において、ウェルネス性能は「S(社会)」の要素として高く評価され、投資判断の重要な要素となっています。健康で快適な環境を提供する不動産は、長期的な安定収益や企業価値向上に寄与すると考えられているのです。

もう一つは「健康経営」の推進です。企業が従業員の健康を経営的な視点から捉え、戦略的に実践する健康経営は、従業員のエンゲージメント向上、生産性向上、医療費抑制、企業イメージ向上に繋がるとされています。ウェルネス性能の高いオフィスは、健康経営を実践する企業にとって魅力的な選択肢となり、テナント誘致の強力な武器となります。

CASBEEウェルネス不動産の評価対象と評価レベル

評価対象となる建築物の種類

CASBEEウェルネス不動産は、主に以下の建築物を評価対象としています。

  • オフィスビル
  • 商業施設
  • ホテル
  • 病院・医療施設
  • 学校・教育施設
  • 集合住宅(一部)

特に、多くの人が長時間滞在するオフィスや商業施設において、その効果が期待されています。新築だけでなく、既存の建築物や改修計画中の建築物も評価の対象となります。

評価レベル(S、A、B+、B-、C)とその意味

CASBEEウェルネス不動産の評価結果は、以下の5段階のランクで表示されます。

 

ランク ランク表示 評価
S ☆☆☆☆☆ すばらしい
A ☆☆☆☆ 大変良い
B+ ☆☆☆ 良い(標準的)
B- ☆☆ やや劣る
C 劣る(建築基準法の最低限基準)

 

これらのランクは、建築物のウェルネス性能がどの程度優れているかを客観的に示す指標となり、不動産市場における競争力や企業価値を測る上で重要な意味を持ちます。

評価機関と評価体制:IBECS(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

CASBEEウェルネス不動産の開発・運用は、一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBECS:アイベックス)が担っています。IBECSは、CASBEEに関する様々な評価ツールの開発、評価員の育成、評価認証業務を行っており、その専門性と中立性が評価の信頼性を担保しています。評価申請は、IBECSが認定する評価員が実施し、その結果をもとにIBECSが認証を行います。

CASBEEウェルネス不動産の評価基準と評価項目を徹底解説

評価の基本構成:Q(建築物の品質)とL(ライフサイクル環境負荷)

CASBEEの評価は、大きく「Q(建築物の環境品質・性能)」と「L(建築物のライフサイクルを通じた環境負荷)」の二つの側面から構成されます。CASBEEウェルネス不動産もこの基本構成を踏襲しつつ、Qの項目においてウェルネスに特化した評価を強化しています。

ここで重要なのは、CASBEEウェルネス不動産の評価は「完成後の設備仕様・性能」だけでなく、設計・計画段階での空間構成やゾーニングの考え方が大きく評価結果に影響する点です。

特に設計・計画段階で評価に直結しやすいのは、

  1. 空調・換気のゾーニングと個別制御の考え方  
  2. 自然採光を前提とした執務空間・共用部の配置  
  3. 階段・ラウンジなど、日常行動を促す共用部計画 

 といった、後から変更が難しい要素です。そのため、CASBEEウェルネス不動産を意識する場合は、基本設計段階から評価項目を意識した検討が不可欠となります。

ウェルネス評価の主要項目:健康性、快適性、安全性、利便性

CASBEEウェルネス不動産の評価項目は、主に以下の4つのカテゴリーに分類されます。

健康維持・増進に関する項目

  • 空気質:PM2.5、CO2濃度、VOC(揮発性有機化合物)などの室内空気汚染物質の管理、換気性能
  • 温熱環境:室温、湿度、放射温度、気流速度の適切性、個別制御の可能性
  • 光環境:自然採光の利用、照明の照度・色温度の適切性、グレア(まぶしさ)防止
  • 水質:飲料水の品質、給排水設備の衛生管理
  • 運動促進:階段利用の促進、フィットネス施設の設置、屋外空間の活用

快適性・生産性向上に関する項目

  • 音環境:遮音性能、残響時間の適切性、騒音対策
  • 眺望・景観:窓からの眺望、緑視率、アートの導入
  • デザイン:空間の開放感、内装材の質感、ユニバーサルデザイン
  • プライバシー:個室の有無、執務スペースの配置
  • 休憩・リフレッシュ:休憩スペース、仮眠室、リラックスできる空間

安全性・安心感に関する項目

  • 防災:耐震性、防火性、避難経路の確保、非常用電源
  • セキュリティ:入退室管理、監視カメラ、防犯対策
  • 感染症対策:非接触設備の導入、抗菌・抗ウイルス素材、換気・空調システムの強化
  • 自然災害対応:浸水対策、BCP(事業継続計画)への対応

利便性・コミュニティに関する項目

  • アクセス:公共交通機関からの利便性、駐輪場、EV充電設備
  • 共用部:ラウンジ、会議室、カフェ、コンビニエンスストアなどの充実度
  • サービス:コンシェルジュ、託児所、郵便・宅配サービス、シェアサイクル
  • コミュニティ形成:交流スペース、イベント開催、緑化活動

これらの項目について、詳細な評価マニュアルに基づき、具体的な設備仕様や運用管理状況が評価されます。評価項目は多岐にわたりますが、建築物のライフサイクル全体を見据え、利用者のウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)を最大限に引き出すための工夫が評価される点が特徴です。

評価マニュアルに基づいた詳細な基準

CASBEEウェルネス不動産の評価は、一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBECS)が発行する「CASBEEウェルネス不動産評価マニュアル」に準拠して行われます。このマニュアルには、各評価項目の詳細な定義、評価方法、採点基準が具体的に記載されており、評価員はこの基準に基づいて客観的な評価を行います。マニュアルは定期的に改訂され、最新の知見や社会情勢を反映した内容となっています。(参照:IBECSウェブサイト

 

CASBEEウェルネス不動産認証取得の具体的なメリット

不動産価値・競争力の向上とテナント誘致

CASBEEウェルネス不動産の認証取得は、不動産のブランド価値を向上させ、市場における競争力を高めます。特に、健康経営を重視する企業や、従業員のウェルビーイングに関心の高いテナントにとって、認証取得物件は魅力的な選択肢となります。結果として、テナントの誘致を促進し、空室率の低減や賃料の安定化に寄与します。

企業イメージ向上とSDGsへの貢献

認証取得は、不動産オーナーや企業が、環境や社会に対する責任(CSR)を果たしていることを明確に示します。これは、企業イメージの向上に直結し、社会的な信頼を獲得する上で非常に有効です。また、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標11:住み続けられるまちづくりを」といった項目に直接的に貢献できるため、企業のSDGsへの取り組みを具体的にアピールできます。

引用:一般社団法人住宅・建築SDGs推進センター「CASBEEウェルネスオフィス評価認証

入居者の健康増進・生産性向上と離職率低減

ウェルネス性能の高い建築物では、快適な温熱環境、清浄な空気、適切な光環境、静かな音環境などが整備されています。これにより、入居者のストレスが軽減され、心身の健康が維持・増進されます。健康で快適な環境は、集中力や創造性を高め、結果として生産性の向上に繋がります。また、従業員の満足度が高まることで、離職率の低減にも寄与し、企業の持続的な成長を支えます。

ESG投資家からの評価と資金調達の優位性

前述の通り、ESG投資の重要性が増す中で、CASBEEウェルネス不動産の認証取得は、ESG投資家からの評価を高める要因となります。環境・社会に配慮した不動産は、リスクが低く、長期的な価値維持が期待できると判断されるため、投資対象としての魅力が増します。これにより、グリーンボンドの発行やサステナブルファイナンスの利用など、資金調達において優位な立場を築ける可能性があります。

補助金制度や税制優遇の可能性

国や地方自治体によっては、CASBEEウェルネス不動産単体での直接的な補助金・税制優遇は限定的ですが、ZEB、BELS、省CO₂先導事業など他の環境性能評価と組み合わせることで、結果的に補助金・金融優遇の対象となるケースがあります。

例えば、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」や、地方自治体による環境配慮型建築物への助成金制度などが該当する場合があります。これらの制度を活用することで、認証取得にかかる初期投資の一部を回収できる可能性があります。

※最新情報は各機関のウェブサイトをご確認ください。

 

CASBEEウェルネス不動産評価取得までの流れと費用

評価申請のプロセス:事前相談から認証取得まで

CASBEEウェルネス不動産評価取得までの一般的な流れは以下の通りです。

  1. 事前相談・準備:評価対象物件の概要や目標とするランクについて、専門機関に相談します。評価に必要な資料のリストアップや準備を開始します。
  2. 評価員の選定・契約:IBECS認定の評価員を選定し、評価業務に関する契約を締結します。
  3. 予備評価(任意):本格的な評価の前に、現状のウェルネス性能を把握し、改善点を洗い出すための予備評価を行う場合があります。
  4. 本評価・申請資料作成:評価員が物件の現地調査や提出資料の確認を行い、評価マニュアルに基づき評価点を算出します。評価結果をまとめた申請資料を作成します。
  5. IBECSへの申請・審査:作成された申請資料をIBECSへ提出します。IBECSは提出された資料をもとに審査を行います。
  6. 評価結果の通知・認証:審査の結果、認証が決定されると、IBECSから評価結果が通知され、認証書が発行されます。

申請に必要な書類と準備

申請には、以下のような書類の準備が必要です。

  • 建築物の概要書(所在地、用途、規模など)
  • 設計図書(平面図、立面図、断面図、設備図など)
  • 設備機器の仕様書、カタログ
  • 運用管理に関する資料(維持管理計画書、清掃計画書、エネルギー使用実績など)
  • 室内環境測定データ(空気質、温熱環境など)
  • その他、評価項目に関連する各種証明書や報告書

これらの書類は多岐にわたり、専門的な知識が求められる場合が多いため、専門家によるサポートが不可欠です。

評価にかかる費用と期間の目安

CASBEEウェルネス不動産評価にかかる費用は、建築物の規模、用途、複雑さ、目標とする評価ランク、評価を依頼する専門機関によって大きく異なります。一般的には、数十万円から数百万円程度の費用がかかる場合があります。内訳としては、評価員の業務費用、IBECSへの申請料などが含まれます。

期間についても、物件の状況や資料の準備状況によりますが、数ヶ月から半年程度の期間を要するのが一般的です。特に、既存建築物の場合は、現状把握のための調査やデータ収集に時間を要することがあります。

 

他のCASBEE評価との違い:CASBEE不動産、CASBEE-WOとの比較

CASBEE不動産との違い:評価範囲と重点項目

CASBEE不動産は、不動産の取引や投資判断に活用されることを目的とした、既存建築物の環境性能評価システムです。省エネルギー性能、室内環境、資源・材料、景観など、総合的な環境性能を評価します。これに対し、CASBEEウェルネス不動産は、CASBEE不動産の評価項目の一部を継承しつつも、特に「健康性」「快適性」「安全性」「利便性」といった、利用者のウェルビーイングに直結する項目に重点を置いています。より詳細かつ専門的なウェルネス性能の評価が可能です。

CASBEE-ウェルネスオフィス(WO)との連携と独立性

CASBEE-ウェルネスオフィス(CASBEE-WO)は、オフィスビルにおける健康・快適性・生産性向上に特化した評価ツールです。CASBEEウェルネス不動産は、このCASBEE-WOの評価項目や知見をベースに開発されており、両者には密接な関係があります。

CASBEE-WOは、主にオフィス空間そのもののウェルネス性能を評価するのに対し、CASBEEウェルネス不動産は、より広範な不動産(オフィス、商業施設、ホテルなど)を対象とし、建物全体のウェルネス性能を評価します。CASBEEウェルネス不動産は、CASBEE-WOの評価結果を一部活用できるなど、連携が図られています。ただし、それぞれ独立した認証システムとして運用されており、評価の目的や詳細な評価基準には違いがあります。

発注者・デベロッパーの立場で整理すると、両者の使い分けは以下のように考えると分かりやすいでしょう。

・テナント誘致や投資判断、物件価値の可視化を重視する場合  

 → CASBEEウェルネス不動産  

・オフィス内部の働きやすさや生産性改善を主目的とする場合  

 → CASBEE-WO

特に金融機関や投資家への説明においては、CASBEEウェルネス不動産の評価結果を用いることで、

物件の社会的価値を定量的に示しやすくなります。

プロジェクトの目的に応じて、両制度を単独または組み合わせて活用することで、より説得力のある不動産価値の説明が可能となります。

 

CASBEEウェルネス不動産に関するよくある質問(FAQ)

Q: 既存ビルでも評価は受けられますか?

A: はい、既存の建築物でもCASBEEウェルネス不動産の評価を受けることが可能です。新築時に比べて改修が必要となる項目があるかもしれませんが、現状の設備や運用状況を評価し、改善提案を行うことで認証取得を目指せます。

Q: 評価を依頼するメリットは何ですか?

A: 専門機関に評価を依頼することで、評価マニュアルの複雑な内容を正確に理解し、効率的に申請準備を進めることができます。また、評価ランクの向上に繋がる具体的な改善策の提案や、IBECSとの円滑なコミュニケーションサポートにより、お客様の負担を軽減し、確実に認証取得へ導きます。

Q: 評価取得後の有効期限はありますか?

A: CASBEEウェルネス不動産の認証には有効期限が設定されています。一般的には5年ですが、詳細についてはIBECSの最新情報をご確認いただくか、当センターへお問い合わせください。有効期限後も継続して認証を維持するためには、再評価が必要となります。

 

まとめ:未来の不動産価値を高めるCASBEEウェルネス不動産

CASBEEウェルネス不動産は、これからの建築物に不可欠な「健康」と「快適性」を客観的に評価し、その価値を可視化する画期的なシステムです。特に今後は、

  • 人的資本開示
  • 健康経営銘柄
  • ESG評価と不動産価値の連動

といった流れの中で、“省エネ性能+ウェルネス性能”を同時に説明できる設計・不動産が求められます。ESG投資の拡大や健康経営の重要性が高まる現代において、CASBEEウェルネス不動産認証の取得は、不動産オーナーや企業にとって、競争力強化、ブランドイメージ向上、そして持続可能な社会への貢献を実現するための強力なツールとなります。

 

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この記事について
監修者

環境・省エネルギー計算センター 代表取締役 尾熨斗 啓介

連載
著書
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