省エネ評価制度の理解度が、受注単価・提案力・補助金採択率を左右する時代に入りました。
2025年以降、建築物のエネルギー性能評価は「法令対応」から「ビジネス戦略」へと進化しています。
設計者にとっては提案時の説得材料に、ゼネコンにとっては入札加点や補助金活用の要となり、デベロッパーにとっては不動産価値やESG評価を高める有力な手段となります。
この記事では、代表的な制度であるCASBEE・BELS・ZEB/ZEHを比較し、
それぞれを「どのタイミングで」「どの目的で」活用すべきかを実務者の視点で整理します。
建築物の省エネルギー性能評価制度とは
CASBEEとBELS、ZEB・ZEHのいずれも、建築物の省エネ等の性能を評価する制度です。では、建築物の性能評価制度とは何なのでしょうか。まずはあらためて、要点を確認します。
建築物の省エネルギー等性能評価制度の目的
建築物の省エネルギー等性能評価制度とは、エネルギー効率・環境負荷・快適性を「数値化し、比較可能にする仕組み」です。
法令対応にとどまらず、建築物の付加価値を市場に伝える営業ツールとしても機能する点が、注目を集めています。
制度の目的は、地球温暖化への対策にあります。建築物分野は、国内のエネルギー消費量の約3割を占めており、建築物の省エネ化による温室効果ガス排出量の抑制が急務となっています。
建築物の省エネルギー等性能評価制度は、建築業界全体の温暖化対策への意識を高めつつ、省エネ性能の高い建築物の普及をめざしています。
建築物の省エネルギー性能評価制度の種類

建築物の性能を評価する制度は、目的や指標によって多様です。国内で主に使われている制度は、以下の通りです。
- BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)
- eマーク
- CASBEE(建築環境総合性能評価システム)
- LEED
- WELL
- GRESB
- ZEB、ZEH
汎用性が高く、国内での利用率が高い制度が、本記事で解説するBELSとCASBEE、ZEB・ZEHです。この3つの制度の違いを、次章から詳しく解説します。
CASBEEとは
CASBEEは、日本が独自に開発したグリーンビル認証制度です。
単なる省エネ評価にとどまらず、資源循環や室内環境など、建物の総合的な環境品質を可視化する指標として活用されています。特に自治体届出や開発許可の段階で活用されることが多く、行政対応に直結する評価制度でもあります。
CASBEEの評価指標と、知っておきたい「自治体CASBEE」について解説します。
CASBEEの評価指標

CASBEEの評価対象
CASBEEは省エネに関わる建築物のエネルギー性能のほか、資源循環や室内環境など、建築物がつくりだす環境を重視し性能を評価します。評価できる対象は住宅・建築物から街区、都市までと幅広く、CASBEEファミリーと総称します。
また、建築物のライフサイクルを通じた評価も可能で、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)に通じる考え方を持っています。
CASBEEの評価方法
CASBEEは、環境負荷(Load)と環境品質(Quality)の2つを評価軸とします。環境負荷の低減とともに、環境品質の向上もめざしている点が、大きな特徴といって良いでしょう。
評価の際は、環境負荷(Load=L)を分母に、環境品質(Quality=Q)を分子に取り、計算結果をBEE(環境性能効率)で示します。BEEの大きさによって、CASBEEは以下の5ランクに分けられます。
- S ↑ 大変優れている
- A
- B+
- B-
- C ↓ 劣っている
自治体CASBEEとは
「自治体CASBEE」とは、一定規模以上の建築物に環境計画書の届出を義務づける自治体のことです。環境計画書の届け出に際し、CASBEEの評価書が活用されます。
自治体CASBEEは、自治体ごとの地域性や政策、方針を鑑み、評価内容・基準が本来のCASBEEと異なっている場合があります。2025年時点で、約24の自治体がCASBEEを活用しています。
◎ CASBEEを活用している自治体
- 名古屋市
- 大阪市
- 横浜市
- 京都市
- 京都府
- 大阪府
- 神戸市
- 川崎市
- 兵庫県
- 静岡県
- 福岡市
- 札幌市
- 北九州市
- さいたま市
- 埼玉県
- 愛知県
- 神奈川県
- 千葉市
- 鳥取県
- 新潟市
- 広島市
- 熊本県
- 柏市
- 堺市
※ 導入順
BELSとは
BELSは、建築物の省エネ性能を客観的に評価する日本独自の制度です。
ここでは、BELSの評価指標と、省エネ性能表示制度の仕組みを解説します。
BELSの評価指標
BELSは、設計段階での一次エネルギー性能を客観的に“星”で評価する制度です。
戸建・小規模非住宅・賃貸物件など、現場提案時に“見える省エネ性能”として提示できるのが大きな強みです。
海外の省エネ性能評価制度が「エネルギー使用の実績値」によって評価するのに対し、BELSは基本的に設計一次エネルギー消費量に基づいて評価され、運用実績は対象外です。
BELSが評価する一次エネルギー消費量

BELSは、建築物が基準比でどの程度、一次エネルギー消費量を削減しているかを評価します。再生可能エネルギー設備の搭載有無によって評価が異なり、評価結果は0~6までの7段階で表示されます。
BELSが評価する断熱性能



BELSは建築物の断熱性能も評価指標とします。断熱性能はUA値とηAC値で評価され、地域区分に基づき基準以上の性能が求められます。
BELSの高評価(BEI要件の達成)が、ZEB/ZEHの性能基準に合致するための一条件となる場合がありますが、ZEB/ZEHは別個の認証であり、自動付与ではありません。取得には所定の申請と要件充足が必要です。
建築物省エネルギー性能表示制度とは

※ 建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表⽰制度|国土交通省
建築物省エネルギー性能表示制度とは、建築物の販売・賃貸広告等に、該当建築物の省エネ性能をラベルの形で表示する仕組みです。ラベルは一般消費者が把握しやすいよう、視覚的に訴求されています。評価方法(自己評価/第三者評価)によって使えるラベルが異なり、BELSは第三者認証を得た評価ラベルとして、表示制度に利用できます。
建築物省エネルギー性能表示制度のラベルは、建築物の種別と評価方法によって、8種類にわけられています。一次エネルギー消費量の評価結果であるエネルギー消費性能は「★(星)」の数で、断熱性能は家マークで示されます。
ZEB/ZEHとは
近年、一般消費者にも広く認知されるようになったZEHは、主に住宅を対象とした省エネ仕様です。同じ考え方を非住宅向けに展開した制度が、ZEBです。それぞれの評価指標と普及状況を解説します。
ZEB/ZEHの評価指標

ZEB/ZEHは、「建物が使うエネルギーを自ら創り出し、実質ゼロに近づける」次世代型建築モデルです。公共施設・オフィス・集合住宅など、補助金申請や入札加点の要件として採用が拡大しています。
いわば、「省エネ性能の最上位ブランド」と言える制度です。
一次エネルギー消費量削減率や地域性、建築物の特性を加味し、以下の種類が整備されています。
◎ ZEBの種類
| ZEB | 省エネで50%以上削減、創エネを加味して100%以上削減 |
| Nearly ZEB | 省エネで50%以上削減、創エネを加味して75~100%未満削減 |
| ZEB Ready | 省エネで50%以上削減(創エネは必須ではない) |
| ZEB Oriented |
※ 延床面積1万㎡以上 省エネで30~40%以上削減 削減率は建物用途によって異なる |
◎ ZEHの種類
| ZEH | 省エネで20%以上削減、創エネを加味して100%以上削減 |
| Nearly ZEH |
省エネで20%以上削減、創エネを加味して75~100%未満削減 ※都市部狭小地、多雪地域 |
| ZEH Ready | 省エネで20%以上削減、創エネを加味して50~75%未満削減 |
| ZEH Oriented |
省エネで20%以上削減 ※都市部狭小地、多雪地域 |
※ すべてのZEHで強化外皮基準への適合必須
ZEB・ZEHの普及状況
2024年3月末時点で、ZEBとNearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Oriented(ZEB水準を含める)のストックZEB床面積は4,227万m2となっています。これは、非住宅建築物ストック面積の
2%程度に相当します。
公共建築物のZEB化率は0.27%、一方民間建築物のZEB化率は2.0%(いずれもストック含む)となっています。
※ 参照:ZEB普及状況や公共建築物のZEB化の課題|環境省

ZEHの普及率は、右肩上がりに伸びています。2023年度の新築戸建住宅を見ると、ZEH化率は27.6%に達しており、トップランナーを含むハウスメーカーがZEH化を牽引していることがわかります。
2027年度から現行ZEH水準を引き上げた「新ZEH」認証の開始が予定・提言されています。正式運用の要件は今後の公表内容をご確認ください。
CASBEEやBELS、ZEB・ZEHを取得するメリット
CASBEEやBELS、ZEB・ZEHなどの省エネ等性能評価制度を取得するメリットは、何でしょうか。3つの観点から解説します。
建築物の性能・価値を可視化できる
建築物の省エネ等性能評価制度は、数値やラベルを使って建築物の性能を可視化できます。消費者や投資家などに建築物の性能を訴求しやすくなり、競争率の高い市場でも顧客を獲得しやすくなるでしょう。
不動産価値が向上する
国土交通省は、「省エネ性能の高い建築物は、投資の中長期的経済リターンが大きい」と予測しています。省エネ性能が高い建築物は光熱費の削減など、わかりやすいメリットがある点、また環境負荷が少ない建築物は、利用者の快適性や健康性にも寄与するとの根拠からです。
CASBEE・BELS・ZEB/ZEHの認証取得は、単なる環境配慮ではなく、企業価値や受注力を高めるための戦略的な投資といえます。
特にデベロッパーやゼネコンにとっては、「入札時の加点」「ESG開示やGRESB評価の底上げ」「高付加価値リース物件としての差別化」に直結します。
補助金を利用できる場合がある
地球温暖化対策のために、ストックを含め高性能な建築物を普及させたい政府は、さまざまな補助金を用意しています。性能を追求すると建築コストがかさみがちですが、補助金を利用すれば施主の経済的負担も軽減できるでしょう。
まとめ
CASBEEやBELS、ZEB・ZEHは、いずれも建築物の性能を評価する制度です。それぞれに主眼が置かれた軸が異なり、省エネ性能や環境性能が数値で示されます。
今後は「法令対応のためにやる省エネ」ではなく、「差別化のために使いこなす省エネ」が鍵になります。
制度を理解し、早期に評価・認証を組み込むことが、提案力・補助金採択・受注率の向上につながります。
また、省エネ計算や自治体CASBEE対応などは、専門外注を活用することで、設計者がコア業務に集中しながら制度対応を確実に進めることが可能です。
制度の申請には、建築物の性能を示す書面の提示が必須です。省エネ計算や申請手続きなど、煩雑な業務があれば外注を検討しても良いでしょう。
省エネ計算をはじめ、省エネ適判や住宅性能評価など、手間のかかる業務は外注し、自社のリソースをコア業務に集中させれば、円滑な計画進行が期待できるのではないでしょうか。
累計3,000棟以上の省エネ計算実績、リピート率93.7%、審査機関との質疑応答まで丸ごと外注できる環境・省エネルギー計算センターにぜひご相談ください。
※専門的な内容となりますので、個人の方は設計事務所や施工会社を通してご依頼をお願いいたします。




